記者会見で厳しい表情を見せる緑丘中学校の吉木充弘校長(中央)ら=8日午後、石川県珠洲市野々江町、塩谷耕吾撮影
8日午前6時40分ごろ、石川県七尾市中島町笠師の自動車専用道路「のと里山海道」で、同県珠洲(すず)市立緑丘中学校の野球部員ら23人が乗ったマイクロバスとワゴン車が衝突した。県警によると、同校1年の山崎粋生(すい)さん(12)=同市蛸島町=と蟹由(かにゆ)晃一さん(12)=同市野々江町=が頭などを強打して亡くなった。
マイクロバスとワゴン車衝突、中学生2人死亡21人けが
さらに、野球部員の保護者でバスを運転していた男性(42)=珠洲市=と1年生の男子部員が重傷、部員13人が軽傷を負った。ワゴン車のほうは運転者の男性(45)=金沢市=が重傷、同乗していた小学生の息子が軽傷という。
七尾署によると、現場は山間部を走る中央分離帯のない片側1車線道路。バスには運転者の男性、男性教諭のほか、21人の野球部員が乗り、金沢市内で開かれる野球大会へ行く途中だった。
七尾署は現場の状況などから、ワゴン車が中央線をはみ出してバスに衝突した可能性があるとみている。ワゴン車、バスをそれぞれ運転していて重傷を負った男性2人の容体を踏まえながら、慎重に事故の原因を調べる。
一方、珠洲市教委によると、野球部員が乗っていたマイクロバスは同市が管理している。過去にも、大会会場に向かうために保護者が運転したことがあったという。
石川県野球協会は事故を受け、緑丘中の野球部が出場する予定だった大会の開催を延期した。
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「信じられない」。亡くなった山崎粋生さんの自宅近くに住む40代女性は目をうるませた。女性は山崎さんが自宅の前で午前7時ごろからバットを持ち、素振りをしていた姿をよく見かけていた。山崎さんは女性と会うと、必ず先にあいさつをしたという。「本当に野球が好きだったんだと思います。残念です」。女性は声を落とした。
山崎さんと保育園からの友だちという同級生の男子生徒(13)は「勉強もできて、優しかった」。休み時間に一発ギャグを披露し、仲間を笑わせるムードメーカーでもあった。山崎さんは「化石が好き。考古学者になるのが夢」と話していたという。
蟹由晃一さんは、今春に卒業した小学校の「卒業のしおり」に将来の夢を「理学療法士」、好きな言葉は「努力」と記していた。
緑丘中で同じ学年の男子生徒(13)は「優しくて、まじめでした。数学が得意で、勉強も分からないことがあると教えてくれた」と振り返り、「なんで、晃一なんだ」と涙をぬぐった。
山崎さんと蟹由さんが通っていた緑丘中の吉木充弘校長は記者会見で「2人の生徒とも大変明るく、元気いっぱいの生徒。今朝も試合を楽しみにして出かけたと聞いている」と言葉を詰まらせた。この日、マイクロバスは午前5時半に学校を出発していた。会見に同席した珠洲市教委の多田進郎教育長は「保護者からお預かりしている大切な、大切な生徒の命が失われ、言葉もなく、残念に思っております」と語った。