遠藤周作(1923~96)=89年ごろ撮影
■文豪の朗読
《遠藤周作が読む「おバカさん」 江國香織が聴く》
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終戦から十数年後の東京に住む兄妹のところに、一人のフランス人がやってくる。馬のように顔の長い、おっとりした、人の好(よ)い青年で、ガストンという名前だ。もともとガストンのペンフレンドだった兄は最初から彼に好感を持つのだが、株が趣味(!)でリアリストで現代っ子の妹の目に、ガストンはいかにも頼りなく、弱々しく、情(なさけ)なく見える。古き良き昭和の、コメディタッチのファミリードラマ風に始まるこの小説は、でも途中からみるみる不穏なことになる。愚連隊、売春婦、謎の老人、犬さらい、殺し屋、といった人々が登場し、まさかのどんぱちがくりひろげられる。巻込(まきこ)まれるというより、半ば進んで社会の暗部に分け入り、ひたすら人を信じ、善を為(な)そうとするガストンとは何者なのか――というのが「おバカさん」のあらすじで、そこにはもちろん、作者の生涯のテーマだったキリスト教の思想がある。
朗読されるのは、危険もかえり…