発達障害の女子児童が言葉の意図を理解できなかった事例
幼児が勘違いした出来事を記録し、分かりやすい話し方につなげている幼稚園を9月に記事で紹介したところ、「幼児に限られる話ではない」といった声が読者から寄せられました。今回は、発達障害の小学生の子どもが学校での会話に苦労している話を取り上げます。
幼児の勘違い、防災のヒントに 幼稚園が27年記録
9月17日付はぐくむ面で紹介した京都府宇治市の広野幼稚園では、先生が「運動会、何か(種目)出るの?」と聞くと、園児は「おやつが出るよ」と答えるなど、意図がはっきり伝わらなかった出来事とどんな情報が抜けていたのかを記録。読みかえして大人の言葉遣いを園児が理解しやすいように改善し、災害時の指示にもつなげている。
掲載後、石川県内の女性(54)から「他人ごとではありません。娘もちょっと前ならやりそうなことばかりです」とのメールが届いた。
小学5年生の長女(10)は4歳の頃、発達障害のアスペルガー症候群(現在の自閉スペクトラム症)と診断され、特別支援学級で学ぶ。医師には言葉はどんどん覚えるが、覚えたことを応用することが苦手と言われた。
小学1年の時、「(その日の授業で)習ったところを音読する」という国語の宿題が授業のたびに出た。長女は毎回、4月からそれまでに習った内容を全て音読した。日に日に読む量が増えるため、女性が「『今習っているところ』でいいのよ」と言ったが、長女は「『習ったところ』を読まないといけないの。先生がそう言ったの」といって、なかなか理解できなかった。
低学年のころはそんな出来事が多く、女性はその都度、連絡帳に長女が担任の意図を理解していないことを書き、指示し直してもらった。進級で担任が替わると、教師がどのように気をつければいいかをわかりやすくするため、経験した具体例を伝えた。
3年時と現在の担任を務める教員によると、以前と比べて意図が伝わらないことが減り、困惑した顔の時はその場で「わかった?」と聞いて誤解をなくそうと意識している。長女から質問してくることも増え、省略された言葉をだんだん補えるようになっているという。
しかし今も、意図が伝わらないことはたまにある。9月、長女は宿泊体験の持ち物が書いてある「しおり」を荷造りで使うために、担任から「(いったん)持って帰っていいよ」と言われて持ち帰った。翌日以降の授業も必要だったが、長女は「先生が持ち帰っていいと言ったから」と、学校に持って行こうとしなかった。
女性は「目立った知的発達の遅れがないため、私たちが気づいていないところで、まだ困っていることがあるかもしれない」と話す。
白百合女子大学教授(発達心理学)で、神奈川県藤沢市のわかふじ幼稚園園長の秦野悦子さんは、自閉スペクトラム症によって、言葉通りに物事を捉え、言葉には表れていない話し手の意図を理解できない傾向があるときは、話し方に注意が必要という。
秦野さんが知る、こんな事例がある。ある小学校が遠足に出かけ、教師が「1人ゴミを10個ずつ拾ってゴミ箱に入れましょう」と話した。自閉傾向があった1年生の児童は周りにゴミが落ちていなかったため、ゴミ箱をひっくり返してゴミを拾い集めた。
「その子は『ゴミを10個拾う』ことを忠実に実行しました。その場所をきれいにする目的や、ゴミが落ちていなければ無理に拾う必要がないといった条件をしっかり伝えることが必要でした」と秦野さんは指摘する。
ほかにも、「ちょっと待ってて」の「ちょっと」はどれくらいの長さなのか。「好きにしなさい」は自由を与えることなのか、怒っていてかまっていられないことなのか、悩むこともあるという。「言葉の背後にある意図まで理解できず、困惑することがある。いろんな経験が少ない子どもなら、なおさら。話す側はあいまいな表現を避けたり、例外や条件を添えたり、具体的な話し方を心がけるようにするべきです」と話す。
そして、自閉スペクトラム症に限らず、「会話の意図を理解し合うには、発言の前提となる内容を話す側と聞く側で共有することが大切です。話す側は、聞く側がどのように理解するのかを想像しながら話す必要がある。大人同士も含めて、あらゆる人に通じることです」と指摘する。(滝沢卓)
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〈発達障害と自閉スペクトラム症〉 発達障害は生まれつき脳の発達が通常と違うことが原因とされ、文部科学省の2012年の推計では、公立小中学校の通常学級にいる児童の6・5%に知的発達に遅れはないものの可能性がある。自閉スペクトラム症は発達障害の一つ。他の人と社会的関係を持つことやコミュニケーションの障害、興味関心の偏りがあるなど、症状には個人差がある。かつては自閉症やアスペルガー症候群、広汎(こうはん)性発達障害といった分類だったが、米国精神医学会のマニュアルが改訂されたことに合わせて、日本精神神経学会が14年に病名を統一した。
■「上司の日本語わかんない」サラリーマンも困惑
9月17日付の記事について、ネット上ではサラリーマン同士でも必要な視点という意見が目立ちました。上司の指示が部下に伝わりにくいことを取材した記事「上司の日本語がわかんない! 『勝手に省略語』幼児との会話にヒント?」を、朝日新聞社が運営するネットニュースサイト「withnews(ウィズニュース)」(
http://withnews.jp/
)で配信しています。