3日閉幕した第29回東京国際映画祭。朝日新聞デジタルでコンペティション部門参加映画の星取表を付けた3人の識者が映画祭全体を振り返り、第30回に向けた提言をする。
【特集】東京国際映画祭
■出口のない社会、素早く反応 秦早穂子(映画評論家)
正直、星取りは難しい。進行中の映画祭の枠の中で、みずてんで、同時発車していくからだ。それは傑出した作品がないせいでもあるのか? だが、優れた作品が簡単に生まれるわけもない。もっとも重要なのは、主題が似通っていたこと。出口のない社会で、仕事もなく不安に駆られる人たちの姿。それこそが世界が抱える共通の問題を映画はすばやく反応していたこと。可能性を持った新しい人が輩出しているのは確かだ。監督で言えば、例えば、アマンダ・ケンネル(サーミ・ブラッド)。アメ、エクエ(パリ、ピガール広場)。メイ・フォン(ミスター・ノー・プロブレム)。松居大悟(アズミ・ハルコは行方不明)。アドリアン・シタル(フィクサー)。ジュン・ロブレス・ラナ(ダイ・ビューティフル)。アンナ・マティソン(天才バレエダンサーの皮肉な運命)ら。数多い映画祭の中で、存続する力はただ一つ、独自のキャラクターを持つことであると、改めて痛切に思う。