ATMから現金を引き出す「出し子」だった男性は有罪判決を受け、「こんなん、せんでよかった。馬鹿やったなと思う」と振り返った=福岡県内、稲垣千駿撮影
「ATM(現金自動出入機)でカネを下ろすバイトがあるんやけど、やらん? 報酬は2万~3万円くらいじゃないか」
工藤会系2組員の関係先を家宅捜索 ATM引き出し事件
5月14日夕方。きっかけは高校時代の友人からの電話だった。1カ月ほど前に街中で偶然会い、連絡先を交換していた。
福岡県の男性(25)は定職には就いていたが、10万円ほど借金を抱え、遊ぶ金もほしかった。「暴力団が関わっている」とも聞かされたが、深く考えずに引き受けた。
翌15日午前3時。友人に言われた通り、帽子とマスクを持って郊外のコンビニに向かった。駐車場には友人の他に知らない男2人がいた。向かった先は福岡・中洲。友人は「俺は帰る」とついてこなかった。
大通りに面したおしゃれなカフェに入ると、別の男2人がいた。1人はプロレスラーのような体格、もう1人は細身だが目がぎょろつき、長袖から伸びた手に入れ墨が見えた。「もう断って済む話じゃない」。そんな雰囲気を感じた。
「自分たちも頼まれた仕事なんです」。そう話す男たちの指示は具体的だった。①カードを入れたら言語選択で「日本語」、次に「キャッシング」を選ぶ②暗証番号を入れて10万円引き出す③出金は1枚20回まで。
店の前には車が2台止まり、男が5人ほど降りてきた。「まずは福岡中央郵便局のATMに行く」。3台に分乗した。
午前5時、空はまだ暗かった。
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全国17都府県のコンビニエンスストアのATMで5月、現金約18億円が不正に引き出された事件。末端の引き出し役(出し子)だった男性が朝日新聞の取材に一部始終を語った。
■コンビニ転々「セブンが穴」
まだ夜が明けきらない5月15日午前5時。男性(25)が乗った車は福岡市の中心街、天神にある福岡中央郵便局のATMをめざして走っていた。
車内には他に、二十歳前とみら…