町の施設内にあるロケット開発史の展示コーナーで、宇宙への思いを語る加藤美和子さん=鹿児島県肝付町
固体燃料ロケット「イプシロン」2号機が20日夜、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の内之浦宇宙空間観測所(鹿児島県肝付町)から打ち上げられる。白を基調とした全長26メートルの機体の中ほどには、赤い2本の矢が描かれた。ロケット開発の歴史に心を動かされ、地元の町に転職した女性が、思いを込めて発案した。
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イプシロン2号機、20日午後8時に打ち上げ
「2本の矢」を考えたのは加藤美和子さん(32)。4月から肝付町の地域おこし協力隊員として「宇宙のまちづくり」を担当する。イプシロンは「低コスト、高性能」が売りの新型ロケット。3年3カ月ぶりの打ち上げとなる2号機は、初号機に改良を重ねた強化型だ。「挑戦的でわくわくする」と話す。
福井市育ち。星空を見上げては宇宙にあこがれた。今年3月まで約5年間、祖母が暮らす宮崎市で福祉の仕事をしていた。2013年8月に初号機打ち上げを見学し、19秒前に発射中止になったトラブルに遭遇した。「なぜ?」。答えを探すうち、独自開発の固体ロケットを長年打ち上げてきた内之浦の歴史を知った。
H2Aなどを打ち上げる種子島宇宙センターより早い1962年に開設。日本初の人工衛星おおすみ(70年)や小惑星探査機はやぶさ(03年)を打ち上げたのも内之浦の固体ロケットだった。「上がるときは上がるさ」。失敗した子を見守るような町の人の温かさ、困難を共に乗り越えていく姿も心に残った。「自分も関わりたい」。隊員の募集を知り、悩んだ末に決意した。
着任早々、観測所にデザイン案を持ち込んだ。最初は相手にされなかったが、練り直して何度も足を運ぶと熱意が通じた。2本の矢は「地元の伝統行事、流鏑馬(やぶさめ)の弓矢とイプシロンの成長」をあらわすが、実はもう一つ意図がある。2本の矢を横に並べると「M」になる。イプシロンの前身の固体ロケットM(ミュー)5(06年で廃止)を受け継いでいるとの思いを込めた。
2号機は、地球周辺の放射線帯を観測する探査衛星を搭載する。打ち上げ予定時刻は20日午後8時。町の人として成功を祈る。(小林舞子)