東大生・ライターの高野りょーすけさん。ハロウィーンでは「童貞」と書かれたTシャツを着て、渋谷の街を席巻した=瀬戸口翼撮影
「1日を50円で売る」「ハロウィーンの渋谷に『童貞』と書かれたTシャツで繰り出す」など、体当たり企画の数々に挑戦している、東京大学2年生でライターの高野りょーすけさん(20)。女子にモテたいがためにゲームを絶って勉強に明け暮れた日々や、入学後の様々な体験から見えてきたものを語ります。
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中学時代はゲームで遊びまくっていました。帰宅部だったので、授業が終わったらすぐ家に帰って、どこかのニートの友達とネットでつながって。チャットしながら、ひたすらオンラインゲーム。2ちゃんねるにはゲームが強い人が紹介される「強者さらしスレ」というのがあって、そこに自分のIDを載せることだけが目標でした。
そんな感じだったので、成績もビリから数えた方が早いぐらい。見かねた兄から「ゲームばかりじゃイカンぞ」と怒られまして、中2の途中ぐらいから徐々に勉強するようになりました。
中高一貫校だったのですが、高校受験がない代わりに、中3の2学期に総まとめテストがあって、成績上位の人は名前が廊下に張り出されるんです。当時好きな女の子がいて、ここに名前が載ればアピールできるんじゃないかと夏休みに猛勉強しました。結局、学年1位はとれたものの、まったくモテることもなく、その子とは卒業までに1、2回しか話せませんでした(笑)。
ただ、そこから勉強がアイデンティティーというか、自分を支える要素の一つになっていったような気がします。高校1年の時に担任の先生から「最近調子いいね。このまま東大行けば?」と勧められて、東大を意識するようになりました。
■ゲームもマンガも全部売った
受験勉強に集中できるように、ゲームやマンガは全部売りました。ネット上のゲーム仲間にも「これから3年間、ゲームはできません」と伝えて。スマホとテレビのリモコンは親に預けてしまいました。
季節講習に参加するぐらいで、予備校には通いませんでした。いまって受験勉強の無料情報がネットにたくさん落ちているんですよね。それをもとに、高2までに英語・数学を大体終わらせてしまい、高3からは理科・社会に力を入れました。
東大は過去問と同じタイプの問題が多く出題されます。なので、数学は30年、英語は20年ほどさかのぼって過去問を解きましたね。「良問」と呼ばれる、とんでもない発想力が要求されるような問題はさっさと捨てます。入試には捨てる技術が必要。実際に合否を分けるのは、過去に使い古されてきたコテコテした問題なんです。
なかなかモチベーションが上がらない人には、勉強法の本を読むのもオススメです。ああいう本って書き方がうまいので、自分は神になれるんじゃないかっていうぐらいにモチベーションがググッと上がる。で、上がったらそういう本は1回しまって、勉強にとりかかっていただければ。
入試の不安を払拭(ふっしょく)するためには、徹底した準備が大事です。僕の場合は隣の人のシャープペンの音が苦手だったので、ユーチューブで試験会場の雑音を探して、大音量で流しながら勉強するようにしていました。お陰で、本番は一切気にせずに試験に集中することができました。
■自分って何? 知りたくて
東大に入ったらチヤホヤされるんじゃないかという、不純な気持ちがなかったと言えばウソになります。でも、実際はそうはいかず、彼女も全然できませんでした。モテるのはいつだって、球技の得意な細マッチョの男なんです。
そんなこともあって、入学後にプツリと切れてしまったというか。これまで「自分は勉強できるぞ」というスタンスできたわけですけど、周りを見たら僕なんかより優秀な人がたくさんいる。自分のとりえ、長所って何なんだろう。将来への不安もあって無気力状態に陥ってしまい、昨年、留年しました。
自分とは何なのかを知りたくて、今年の3月から「東大生の1日を50円で買ってくれませんか?」という企画を始めました。レンタルおっさんとかレンタル彼女ってありますけど、僕の場合1時間3千円とかでは買ってもらえないだろうと思って、レンタル系の最安値を調べたんです。そうしたら、ホームレス小谷さんという方が1日を50円で売っていた。それで僕も50円に決めました。
企画を始めて3週間ぐらいして、「発達障害の子どもと数学の話をしてください」という依頼をお母さんからいただきました。小学3年生の男の子で、数学や物理の才能がすごい。お母さんは勉強しながらお子さんからの質問に答えていたのですが、とうとう自分の手に負えなくなって、僕のところに連絡をくださいました。
「1÷81は」と聞くと、数秒で「0.012345679……」と返してくる。すでに中学数学を終えていて、「フェルマーの最終定理」についても質問されました。今回は答えることができましたけど、あと何年かしたらわかりません。僕が帰った後、その子はお母さんに「貴重な体験だった」と言ってくれたみたいです。小3の言葉遣いじゃないですよね(笑)。
これまでにいただいた依頼は130件以上。自殺未遂をした方やJKビジネスで働く女の子に話を聞いたり、ポーカーの世界チャンピオンと対決したり、ニューハーフの方とデートしたり。この企画がなかったらお会いすることのなかった人たちに、たくさん出会いました。
身に染みて感じたのは、多種多様な生き方があって、皆さんがそれぞれの人生を必死にがんばっているんだということです。留年する前までの甘えていた自分が、ムチ打たれるような思いでした。
■「童貞」Tシャツで渋谷に
50円企画とは関係ないのですが、今年のハロウィーンは「童貞」と書かれたTシャツを着て渋谷に行きました。僕はそれまで「高学歴」と書いたTシャツを着てたんですけど、ヨッピーさんという知人のライターさんに童貞Tシャツで何かやってくれと言われまして。
それで、色んな仮装をした方と一緒に写真におさまって、どちらが目立つか勝負するという企画を考えて、「ハロウィンの渋谷、Tシャツに『童貞』と書くだけで1番目立てる定理」という記事にまとめました。会う人会う人に「頑張ってください」と言われましたね。
LINEの連絡先を渡したりもしたのですが、日本の女性からはほとんど反応がなくて、ちょっと傷つきました。その代わりに台湾・香港・ポーランド・カナダ・オーストラリアとか世界中からメッセージが届いて、LINEの通知がすごいことになりました。いつの間にか台湾の掲示板に僕の情報がさらされ、メディアで紹介されてしまったみたいです。
親は50円のことも童貞のことも多分知らないと思います。まあ、バレたらバレたで仕方ないかなと。これからも「童貞高学歴の恋愛相談」とか、面白いことをどんどんやっていきたいですね。
行動を起こそうとする時に合理的な理由を求めすぎると、結局何もできない。どんな行動にも必ず何かしらのマイナスがあります。僕は大学に入ってからずっと、そのマイナスの方ばかりに目を向けてきました。でも、絶対的に正しい理由なんてない。そのうえでいま目の前のことをしっかりやっていくことが大事なのかなって。留年してみて、いまはそう感じています。
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たかの・りょーすけ 1995年、茨城県生まれ。中高一貫の茗溪学園を卒業。2014年、東京大学理科2類に合格。1年の留年を経て、来年4月に法学部へ進学見込み。今年3月に「東大生の1日を50円で売る」企画をスタート。130件以上の依頼を受けた体験を『東大生最高の留年 現役東大生が1日を50円で売ってみたら』(KADOKAWA)にまとめ、来年2月に刊行予定。(聞き手・神庭亮介)