雇用形態別の賃金格差(月収)/相談先の例/高齢女性の貧困率の将来見通し
生活が苦しく孤立しがちなものの、その姿や課題に目が向けられずにきた「非正規シングル中年女性」の現状を、「『見えない』女性たち」として11月7日フォーラム面に掲載したところ、多くの反響がありました。50年後には未婚や夫と離別した高齢女性の半数が貧困に陥るという推計もあります。社会はどんな手を打てばいいのか。寄せられた意見とともに再び考えます。
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11月7日の記事には、似た立場の女性たちから、共感や将来への不安の声が寄せられました。
関東地方の30代の女性は「近々私も同じ道をたどるなと感じた」といいます。就職活動の重圧から通院が必要になり「体をかばいながら非正規で働いてきた」そうです。両親が亡くなったら「あまり多くは働けないため、生活保護しか残された道はないだろうと考えてしまいます」。
記事にあった「非正規の女性は短期間で職を転々とし、人間関係が途切れがち」という言葉に共感したというのは埼玉県の女性(48)。小中学校で外国人の子どもたちに日本語を教えています。自治体の臨時職員で、契約は半年ごと。校長や担任と事務的な会話はするものの「親しくなる機会はなく、職場の同僚、友人というのは誰もいません」。入院したり、体調が悪くて買い物にも行けなくなったりした時は、どうしたらいいのか。いつまで仕事があるかも不安だといいます。
東京都の女性(49)は介護が必要な母(75)と2人暮らし。2年前、銀行を辞めました。離職者が相次ぎ、過労で限界まで追い詰められたといいます。ゆっくり休むよう医師に勧められ、失業保険を受給しようと公共職業安定所を訪ねました。職員から「療養中なら求職活動できないでしょ。不正受給になりますよ」と威圧的に言われたといい「全ての道を閉ざされた気持ちになった」。母の介護があり、長時間家を空けて働くこともできません。「年金が受給できる年齢まで貯金がもつのか。生活保護も考えますが、そうまでして生きていたくないという気持ちにもなってしまう」
近畿地方に住む女性(46)は大学院中退後、公的機関でアルバイトをしてきました。医療事務の資格を取り転職活動もしましたが、すべて書類落ち。今年は入院し、手術も受けたそうです。「正社員経験も若さもスキルもない。世の中に必要とされていないと感じます」。日給約6千円。家賃1万9千円、間取り1Kのアパートに一人で暮らし、電化製品は冷蔵庫、アイロン、ポットだけ。「終活」のつもりでパソコンもアルバムも捨てたそうです。「明るい老後が描けない。はよ死にたいなあというのが本音です」
一方、厳しい声もありました。東京都の女性(52)は、正社員として働きながら夫と、3人の子どもを育て介護もしているそうです。「ここまで、どのくらい努力をして生きてきたと思いますか」。記事で取り上げた女性たちに対し「なぜ就ける時に正規職に就かなかったのか。私は多くの税金を払い、休みも取らず、子育て中には同僚に罵声を浴びせられもしながら、やるべきことをやってきて今の生活です」といいます。(三島あずさ)
■生活保護やめて個別手当に NPO法人ほっとプラス代表理事・藤田孝典さん
生活に困窮する人たちの相談に応じています。女性はメールや電話で相談する人が多く、中には「早く人生を終わらせたい」という切実な訴えもあります。
女性は非正規で働く人が多く、男性と賃金格差があるにもかかわらず、働いていると救済対象になりにくい。社会保障の対象は、もはや高齢者や障害者、シングルマザーだけではありません。非正規で働く単身の中年女性たちも、社会的な「要配慮者」として考える必要があります。
生活困窮者を救う「生活保護」制度は、生活に困りに困った末に、家族にまで連絡して恥ずかしい思いをさせてから救済する制度。これからは、生活保護を受ける一歩手前の人たちに対する「防貧政策」が必要だと思います。生活保護制度を解体し、住宅、医療、介護など、必要な支援を「手当」として支給すべきではないでしょうか。
日本は住宅にかかる負担がとても大きい。公営住宅に入居できる要件を広げ、生活に困窮する若者や単身者らも対象とすべきです。フランスのように、資産家や企業が持つ不動産を提供してもらい、見返りとして税制で優遇する制度もあります。失業者らを対象に家賃などを補助する「住居確保給付金」も支給対象を広げる必要があります。
少子高齢化に歯止めがかからず、右肩下がりの成長が続き、どれだけ働いても、中間層が落ちていく社会になります。生活に必要な支出については、「脱商品化」して支出を下げる社会にならないと日本経済の寿命を縮めていくだけです。(聞き手・宮島祐美)
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ふじた・たかのり 1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事、社会福祉士。主な著書に「貧困世代」「続・下流老人」。
■働く側、低賃金改善へ結束を 労働政策研究・研修機構特任フェロー小杉礼子さん
非正規の若者がこれほど増えていなかった時代から、「一般職」という「総合職」より低い賃金の雇用区分がありました。結婚や出産による退職を考えて一般職を選んだ若い女性も多かったと思います。
非正規にも似た面がありますが、一般職より雇用が不安定で、賃金はさらに低いことが多い。一方、若い男性にも非正規が増え、結婚して専業主婦になるという将来設計は危うくなっています。晩婚・非婚化で、非正規のまま独身で中年期を迎えると、親が年金生活や介護対象になるかもしれず、厳しさは増します。
男性が多い職種に比べ、女性が多い職種は賃金が上がりにくいという特徴もあります。介護職や保育士、家事代行などは、家庭内で無償提供されてきたサービスという認識が根底にあり、専門性が評価されにくい。低賃金の構造を変えるには、働く側の結束も必要です。ひとつの例が看護師です。医師の使用人のように扱われることもありましたが、専門職業団体を結成し、地位の向上をはかる運動をしてきました。今では、独身女性でも安定した生活設計ができる専門職として、広く認知されています。
一般的に、働く側の結束は労働組合でしょう。非正規職を組織化している組合や個人で加入できる組合もあります。労組に加入することは、憲法で守られている個人の権利です。自分を守るため、身近な例を通して労働法を学んでおくことも必要だと思います。(聞き手・花房吾早子)
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こすぎ・れいこ 1952年生まれ。教育社会学、進路指導論が専門。2015年、共編著「下層化する女性たち」を出版。
■「週3日労働でも自立」目標 働く女性の全国センター代表・栗田隆子さん
就職氷河期の時代、正社員の試験に落ち、思い出せないくらい色々な非正規職を経験しました。今月下旬から、学校の派遣事務員として働きます。7時間労働を週5日で月収約15万円。契約は来年3月末まで。また就職活動をしなければなりません。
自己選択、自己責任を主張する人はいます。でも、私は非正規になりたくてなっているのではありません。「酸っぱいまんじゅう」「辛いまんじゅう」「苦いまんじゅう」しかなく、せいぜい食べられる物を選んだだけ。
センターの電話相談「働く女性の全国ホットライン」に昨年寄せられた373件のうち、約6割が非正規職から。50代の短時間パートからの相談が増えています。清掃、食品工場、スーパーなど。通院や介護との両立といった環境の中、殺伐とした人間関係や不安定な収入に追い詰められている人がいます。
センターは今年「週3日労働で生きられる社会に」というスローガンを掲げました。時給アップや税控除、教育や住宅の確保など社会保障を充実させ、短時間労働でも自立できるようにしたい。「甘えている」「健康なら週5日労働が当然」といった意見も聞きます。でも、すでに週3、4日労働は増えています。短時間労働を否定するのではなく、それで生きられない状況を生きられる状況にしたい。現状に「NO」と言うだけでなく、私たちなりの新しい価値観を示したいのです。(聞き手・花房吾早子)
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くりた・りゅうこ 1973年生まれ。大阪大大学院博士課程中退。2014年、共著「高学歴女子の貧困」を出版。
■未婚・離別の高齢女性、50年後に半数貧困
厚生労働省の調査によると、正社員・正職員以外の女性の賃金は、どの年代でも20~24歳の正社員・正職員の女性を下回り、年齢を重ねてもほぼ横ばいで推移しています。
少子高齢化や就労形態の多様化、単身高齢者の増加などについて分析している国際医療福祉大学総合教育センターの稲垣誠一教授は、将来の年金額や家族構成、同居家族の所得などに基づき「貧困率」を算出しています。ここでの貧困率は、一般的な「相対的貧困率」ではなく、所得が生活保護制度の「生活扶助基準」未満になる人の割合を示します。これによると、2060年代には未婚や配偶者と離別した高齢女性の半数が、貧困に陥ると予測しています。
稲垣さんは「未婚や離別の女性が非正規雇用だと、低年金のうえ、頼る人が少なく、貧困になりやすい。雇用の格差改善だけでなく、すでに低年金が約束されてしまっている40、50代の女性たちの最低保障年金などを検討する必要がある」といいます。(宮島祐美)
■社会が目を向ける必要
「自らの選択を社会のせいにするのか」と批判もありましたが、大半は「もっと知って」という訴えでした。努力だけでは越えられない困難。自己責任と切り捨てず、社会がもっと目を向ける必要があるのではないでしょうか。社会保障のあり方を問い続けたいと思います。(花房吾早子)