安川電機が開発した移乗アシスト装置。専用のシートに座った利用者を、装置のアームが持ち上げて乗り降りさせる=同社提供
老後を過ごすなら、どんな街がいいだろうか。自然が豊かで、しかも買い物も便利。老いていくことを考えれば、何よりも医療や介護が充実した場所――。昨年夏、シニア層向けの移住情報誌が発表した「50歳から住みたい地方ランキング」で第1位に輝いたのは北九州市だった。
介護とわたしたち
「いざという時、シニア同士が支え合えるまちなら安心ですね」
認知症にまつわる市民の相談を受ける「カフェ・オレンジ」(小倉北区)で相談員を務める長野幸子さん(72)に、ランキングの話を振ると、そんな答えが返ってきた。
昨年5月にオープンしたカフェは、そんな思いがこもった施設だ。市の施設の一室を使い、介護経験がある60~70代の市民が中心になって運営している。「家族が認知症かもしれない」という相談が多く、コミュニケーションの取り方を助言している。これまでに約1万人が訪れた。認知症は早期に発見し、適切な治療をすれば、進行を遅らせることもできる。「早く気づき、治療するための『入り口』になれれば」と、長野さん。市外からの視察も多いという。
「終(つい)のすみか」として人気の北九州市は、高齢化する都市の「先進地」だ。人口に占める65歳以上の割合は3割弱(約28万人)で、政令指定都市で最も高い。支援や介護が必要な人は6万3千人で、3年前から1割増えた。今後、全国の都市でも高齢化が進む。医療・介護体制をどう整えるのか。そして担う人材の確保が課題だ。
市内の住宅街にあるグループホームでは入所希望者が増え、2015年春に施設を増築して定員を18人に倍増させた。だが従業員が集まらず、今も入所者は9人しか受け入れていない。「人手不足がここまで深刻だとは思わなかった」と事務長は嘆く。介護施設の紹介業を営む山川仁さんは、「施設で働く人は増えているが、要介護者の増加には追いつかず、多くの施設で人手が足りていない」と指摘する。
ならばロボットで――。北九州市では、全国でも珍しい産官学による介護ロボット研究が進んでいる。
実験に協力している特別養護老人ホーム「好日苑大里(こうじつえんだいり)の郷(さと)」(門司区)は、一部の部屋のベッドや浴室で、車いすからの移乗装置を使っている。天井からぶら下がるハンガー状のフックで、専用のシートに座った利用者をつり上げて移乗させる。男性スタッフは「人が持ち上げるより時間はかかるが、作業はずっと楽になる」と話す。
産業都市ならではの取り組みか…