何の落ち度もない高齢の夫婦が白昼、自宅で刺殺された。被告として法廷に立ったのは、「フェティシズム障害」と診断された犯行当時20歳の男。身勝手な性の衝動を動機として述べた男に、検察側は死刑を求めた。裁判所が下した判決は――。
「きょうも傍聴席にいます。」 記事一覧
昨年11月29日、岐阜地裁の301号法廷。殺人などの罪に問われた被告の男(22)は鼻筋が通った整った顔立ちだった。裁判長が起訴内容について「間違いはありませんか」と尋ねると「ないです」と認めた。
起訴状によると、被告は2014年11月、岐阜県内の民家に侵入。家にいた高齢の夫婦を牛刀(刃渡り約18・3センチ)で複数回にわたって刺し、殺害するなどしたとされる。
冒頭陳述などから事件をたどる。
被告は日本人の父とフィリピン人の母の間に生まれた。9歳のときに両親が離婚。その後は父親に育てられた。中学卒業後は進学や就職はせず、父から一日1千円の小遣いをもらい、趣味のギターを弾いたり、友人とゲームをしたりして過ごした。
卒業から1、2年後、寝ているときに「過呼吸みたいな症状」が出るようになった。「目をつぶっていると眼球がひっくり返るんじゃないか、とか、天井を見ていると棺おけに閉じ込められているイメージが浮かぶ」こともあった。事件の1年前、被告は父親と1度、精神科で受診した。
被告人質問。
被告「常に強い不安がある状態だった」
弁護人「病院で薬は出たか」
被告「出ました」
弁護人「飲んだか」
被告「飲んでません」
弁護人「何で?」
被告「薬漬けになるんじゃないかと不安になった」
弁護人「不安はいつごろまで続いた?」
被告「事件の年まで」
14年3月、20歳だった被告はかつてない強い欲望を感じる体験をした。
被告「電車で女の人の太ももを見て、とても興奮した」
女性の太ももへの執着は以前からあったが、これを境に、太ももを使った性的な行為をしたい、という気持ちが高まったという。
一方、「太ももへの関心がなくなってしまうんじゃないか」「太ももの良さがわからない人と一緒にいると、自分もわからなくなってしまうのでは」という不安も生じたという。
こうした思いが「いらだち」になったのは、同年9月ごろ。被告は仲の良かった友人とも会わなくなり、ギターを自室の床にたたきつけることもあった。