スペインの洞窟で見つかったネアンデルタール人の男性のあごの一部(ネイチャー誌提供)
約5万年前のスペインにいたネアンデルタール人が、現代の鎮痛剤や抗生物質の成分を含む植物やカビを口にしていたことがわかった。悪化した虫歯の痛みを抑えるためだった可能性があり、事実なら現代にも通じる生薬の知識を持っていたことになる。豪州や欧州の研究チームが8日付の英科学誌ネイチャー(電子版)に論文を発表した。
研究チームは、ネアンデルタール人の歯に付着した歯石に注目。スペインやベルギーの遺跡で見つかった5人の歯石に含まれるDNAを分析した。その結果、スペインのエルシドロン洞窟で見つかった若い男性の歯石から、ポプラの木やアオカビの仲間に含まれる成分が検出された。ポプラは鎮痛剤アスピリンの原料になるサリチル酸を多く含み、アオカビは抗生物質ペニシリンを生成することで知られる。
男性の下あごには歯が化膿(かのう)したとみられる痕が残っており、下痢などを引き起こす病原菌に苦しんでいたことも判明した。研究チームは「薬効を熟知した上で治療に使っていたように見える」としている。
研究チームはさらに、歯石から検出された歯周病の病原菌のDNAを解読したところ、ヒト(ホモサピエンス)とネアンデルタール人が約18万年前まで同じ病原菌を共有していた形跡が見つかった。数十万年前、共通の祖先から分岐した後にも、食物やキスなどを通して同じ口内細菌に感染していた可能性を示しているという。ネアンデルタール人は、欧州では4万年前ごろまでに絶滅。最近の研究から、ヒトと交雑していたとする説が有力になっている。(ワシントン=小林哲)