聖路加国際病院では帝人のシステムを使って医療機器の管理をしていた。作業台にあるシートが機器に貼ってあるタグを読み取り、在庫状況がパソコンに表示される=東京都中央区、恵原弘太郎撮影
在庫管理システムや健康食品――。化学繊維などをつくる大手素材メーカーの帝人が、これまでとは異質なビジネスを展開しています。リーマン・ショックや新興国の追い上げで素材事業が低迷したのがきっかけでした。
市場が欲するものを提供する「必然」 帝人・鈴木純社長
2月下旬、聖路加国際病院(東京都中央区)は朝から患者らでごった返していた。外来は1日平均2千人を超え、手術数でも都内有数規模を誇る。
院内には4千台の医療機器がある。うち、点滴用ポンプなどの小型機器2千台は、複数の診療科をまたいで使われ、行ったり来たり。効率的な病院運営には、常に移動するこれら2千台を、必要な場所に必要な数だけ置くのが理想だ。
だが、かつての病院の現実は理想とかけ離れていた。地下2階の一部屋に機器は積み上げられ、使う度にスタッフが取りに行き、そして戻す。そのため所在不明や病棟ごとの機器の抱え込みが頻発。結果的に新規購入が増え、在庫台数が膨らんだ。
病院が、素材メーカー帝人の管理システム「レコピック」を導入したのは昨年6月だった。
レコピックの仕組みはこうだ。機器の保管棚の板に帝人が開発したシートを敷く。シートは電波を送信するアンテナの役割を果たす。機器には電波を受信するICタグが貼ってあり、シート上に置くと交信して情報を読み込む。例えば、スタッフがほかの病棟の棚から機器を持ち出して、使用後に自分の病棟の棚に移すと、移動情報が認識される。院内のネットを通じて、どこの病棟にどんな機器が何個あるかがパソコンに表示される。
現在は3種類、計800台の機器が管理対象だ。1カ所にまとめて保管していた機器を病棟ごとに分散保管し、必要な場所に必要な数だけ置けるようになった。機器を取りに行くムダな時間が減った。
機器の保守管理を担う臨床工学技士の秋葉博元さん(39)は、「人為的ミスがなくなり、管理の正確性が高まった」と話す。4月にも管理対象を5種類、1600台にまで増やす。
在庫台数のムダも計算できるようになった。注射器用のポンプは350台のうち50台を削減できる見込みだ。買い替え数を減らせば2千万~3千万円かかったレコピックの導入費は、近いうちに元が取れそうだ。ムダを省いて生産価値を上げようとする工場や物流のカイゼンと同じだ。
レコピックは、2013年に会社の機密文書の管理に採用されたのを機に、公立図書館や大学図書館で予約貸し出しの自動化に使われ、じわりと広がる。帝人でレコピック担当の平野義明さん(49)は、「工場や物流施設、流通業などいろんな現場に広げていきたい」と意気込む。
帝人の持つ「素材」「IT」の二つの技術を組み合わせて、新しい価値を生み出した。素材メーカーの本来の姿とは異質のサービスだ。
■リーマンショックと中国急成長からの「再起動」
帝人は化学繊維をつくる大手素…