世界的に売れ筋になっているSUV(スポーツ用多目的車)。各メーカーによる品ぞろえが充実してきた国産SUVを代表する一台が、このほど全面改良されたマツダCX―5だろう。得意のディーゼルエンジン技術に磨きをかけた2代目で、その出来栄えを公道試乗で探った。
特集:飽くなき挑戦 ロータリーエンジンの半世紀
CX―5は、2012年に初代モデルが発売された中型SUVだ。低燃費と軽快な乗り味を両立する独自技術「スカイアクティブ」を全面採用。欧州車に引けを取らない走行性能や質感の高さを実現し、国内外で評判となった。いまやマツダの世界販売台数の4分の1を占める主力モデルとなっている。今年2月に販売開始した2代目も好評で、発売1カ月で累計受注が1万6千台を超えた。
まず試したのは、看板モデルの2・2リッターディーゼルターボ。スターターボタンを押してエンジン始動すると、アイドリングの静かさに驚かされる。ディーゼル特有の「カラカラ」というノイズが抑えられ、高品質なスピーカーから流れる音楽を邪魔しない。
かつてディーゼルエンジンを載せた乗用車は、経済性だけがとりえの印象があった。1970~80年代に、日産セドリック/グロリアやトヨタ・クラウンといった大型セダンもディーゼル仕様を用意したが、あか抜けない希少モデルといった印象が強かった。排ガス規制の強化もあり、国産のディーゼル乗用車は2000年ごろに、ほぼ絶滅。原油高を背景にディーゼル人気が根強かった欧州とは対照的に、国内市場ではディーゼル冬の時代が続いた。そんなディーゼルの技術をブラッシュアップして排ガスのクリーン化に取り組み、もともとの長所だった低燃費・高トルクの両立を付加価値として、最上級グレードでリバイバルさせたのが近年のマツダだった。
■職人気質の社風がにじむ
今回のディーゼル仕様も、走り出しからしっとりした印象だ。大トルクのエンジンにありがちなアクセルをちょっと踏んだだけでグワッと前に飛び出すような唐突感はない。一方で、低速域からの加速に、もっさり感は皆無。1・6トン超の車体をグイグイ引っ張る。
巡航時のフィーリングは極めてナチュラルだ。ハンドル操作に車体が素直に反応し、大柄なボディーの負担を感じさせない。コーナリング時にエンジントルクを制御して乗り心地を良くするという独自技術「G―ベクタリングコントロール」の効果か、不快なロールも抑えられている。高速道路で速度を上げても、走り出しの好印象は変わらない。回転振動の周波数からチューニングしたという、遮音にこだわったエンジンが快活に回る。
トランスミッションは自社製の6速AT。いまや10速ATまで実用化される中で、スペック的には凡庸なトルコンだ。エンジニアに意図を聞くと、ロックアップ領域が広く、過不足ないミッションとして6速を選んだという。カタログ上のうたい文句にとらわれず、ストレスのないリニアな加速感を狙った。仕上がりを製造部門と密に煮詰めるべく、内製にこだわったという。
試乗では初代モデルとの比較もできた。基本設計や寸法はほぼ変わらず、見た目も似ている両車だが、静粛性やしっとり感の向上はハッキリと体感できる。地味ながらも確かな技術による細かい改善の積み重ねで、着実に商品力を高める――。そんな姿勢に、クセの強いロータリーエンジン(RE)を、創意工夫で根気強く手なずけて市販し続けたマツダならではの気概を強く感じた。
ちなみにガソリン仕様は、いずれもNAの2リッターと2・5リッターの2種類を用意。他メーカーのSUVでは主流の小排気量ターボやハイブリッド車はあえて設けていない。求める走行性能を突き詰めたうえで、生産コストも踏まえた選択だという。「自分たちの理想の走りを実現すれば、結果的にお客さんが喜ぶものができる」というエンジニアの言葉にも、流行に左右されない絶対的な評価軸を大切にする、職人気質の社風がにじむ。
先代で定評のあった洗練された内外装は、さらに磨かれた印象。ボディーの鼻先を低く長く見せる「鼓動」デザインはいっそう造形がシャープになり、水平基調のインパネは室内空間の開放感につながっている。
■思い切った商品企画を期待
新型CX―5はいわば、細部のブラッシュアップを積み上げた「正常進化」といえるが、それゆえに既視感が強く、新鮮味に乏しいのが物足りないところだ。80年代のカペラやファミリアと同様、意匠や加飾には欧州メーカーの強い影響も垣間見える。わがままを言えば、次はマツダにしかできないような思い切った商品企画を期待したい。たとえば、新世代のハイパワーREを積んで、軽量・低重心とハンドリングを極めた本格派スポーツSUVなんていう発想はどうだろう?
かつては、ランボルギーニを無理やり軽自動車規格に押し込めたようなガルウィングの軽ミッドシップ「AZ―1」など、破天荒なクルマも生み育てたマツダ。堅実なクルマづくりで経営を立て直した今のマツダだからこそできる、奇抜さと商品力を両立させたクルマもぜひ見てみたい。(北林慎也、吉村真吾)