勝利演説で笑顔を見せる右翼・国民戦線(FN)のルペン党首=23日午後9時8分、フランス北部エナンボモン、杉本康弘撮影
フランス大統領選の第1回投票が23日にあり、欧州連合(EU)の統合推進を掲げるエマニュエル・マクロン前経済相(39)と、EU離脱の国民投票を公約とする右翼・国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首(48)が5月7日の決選投票に進むことが固まった。既存の2大政党である中道左派・社会党と中道右派・共和党の候補がいずれもいない異例の対決だ。
特集:2017試練の欧州
マクロン氏の横顔
ルペン氏の横顔
「マクロン氏を信じている」 EU首脳ら祝意ツイート
仏内務省の集計(開票率97%)では、マクロン氏の得票は23・9%で、ルペン氏が21・4%。最大野党・共和党のフランソワ・フィヨン元首相(63)は19・9%にとどまっており、開票開始からほどなく敗北を認めた。選挙戦の最終盤で急伸した左翼のジャンリュック・メランション欧州議会議員(65)は19・6%。与党・社会党のブノワ・アモン前国民教育相(49)は6・4%に沈んだ。投票率は78・7%だった。
選挙戦の軸となってきたルペン氏は、首位にこそ届かない見通しになったものの「エリゼ宮(大統領府)への第1段階を突破した」と勝利宣言。自国通貨フランの復活や国境の再構築などを訴えており、「すべての愛国者は結集してほしい」と呼びかけた。
これに対してマクロン氏は、移民規制の強化を唱えるFNを意識して「すべてのフランス人のための大統領になる」と強調。FNの伸長という「ナショナリズムに直面している」として、「EUの再構築をはかり、フランスの将来を描く」と訴えた。
フランスでは、大統領の権限を強めた1958年からの政治体制「第5共和制」になって以来、左右の2大政党が互いに政権を担ってきた。2大政党に属さない独自候補と右翼政党党首による決選投票は、失業率の高止まりや治安の確保が大きな課題となっているフランスで、既存の政治への不満が強いことを浮かび上がらせた。
決選投票に向け、「自国第一」をうたうルペン氏と、ユーロ圏の議会創設など統合の深化を訴えるマクロン氏の論争となる。ルペン氏が勝利すれば、英国のEU離脱国民投票、米国のトランプ大統領当選に続く「内向き」な動きとなり、欧州にとどまらず世界を大きく揺さぶるのは確実だ。
FNには熱狂的な支持者がいる半面、「社会の分断や亀裂を深める」との批判もついて回る。フィヨン、アモンの2大政党の候補は、そろってマクロン氏の支持を表明した。EU首脳陣もツイッターなどでマクロン氏の健闘を祈った。
ただし、投資銀行出身で「右でも左でもない」としてオランド政権の閣僚の座を辞して独自に立候補したマクロン氏は、「既得権層」だとして左派層の一部に拒否感がある。逆に、保守層には「左翼だ」とも映る。ルペン氏の父親のジャンマリ・ルペンFN前党首が、保守のシラク氏を相手に決選投票に進んだ2002年の大統領選のように、「FN包囲網」が広がるかどうかは不透明だ。(パリ=青田秀樹)