古浄瑠璃「弘知法印御伝記」の一場面。妻の死に呆然(ぼうぜん)とする主人公=2日、ロンドン、石合力撮影
17世紀に長崎の出島から極秘に持ち出され、英国に1冊だけ正本(台本)が残る幻の古浄瑠璃「越後国 柏崎 弘知法印御伝記(こうちほういんごでんき)」が2日、ロンドンの大英図書館で上演された。日本文学研究者のドナルド・キーンさん(94)らが企画し、ゆかりの地で初めての公演が実現した。
「御伝記」は新潟・長岡の西生寺に即身仏(ミイラ)としてまつられている高僧弘智(弘知)法印にまつわる伝説をもとにした一代記。正本は1962年、英国に滞在していた鳥越文蔵早稲田大名誉教授(85)が大英博物館で発見した。日本には残っていない幻の浄瑠璃台本で、1685年に江戸で上演された記録があり、1693年にドイツ人医師が持ちだした。現在、大英博物館から独立した大英図書館に保管されている。
この日の上演は、キーンさんの養子で浄瑠璃三味線奏者の越後角太夫(キーン誠己さん)が正本をもとに新たに作曲し、2009年に柏崎で約300年ぶりに復活上演したものを英語の字幕を付けて演じた。
会場には、キーンさん、鳥越さんも訪れ、開演に先立って約250人の観客らを前に講演。鳥越さんは当時を振り返り「大英博物館の引き出しにあった数冊の和本の一つ。日本に現存する最古のミイラが弘智法印だと知っていたが、その人物が劇化されていることは知らなかった。約500本くらいある浄瑠璃の演目をほぼ記憶していたが、この本は大変珍しく、日本国内には現存していない貴重な本だとわかった」と語った。キーンさんは、浄瑠璃の歴史を説明したうえで「300年以上も上演されていなかった演目をロンドンで観客に楽しんでもらいたい」と語った。(ロンドン=石合力)