松山正宗住職と6月のメッセージ。「掲示板用に」と寄付をしてくる人もおり、これが3代目の掲示板だ=静岡県磐田市見付
静岡県磐田市の古刹(こさつ)「見性寺」の松山正宗住職(71)が毎月、国道1号沿いの掲示板にメッセージを掲げて40年になる。当初は人生訓が中心だったが、最近は政治的な箴言(しんげん)が増えた。「戦争の火種と火消しは首相の心の中」。それが6月のメッセージだ。
見性寺は開創1千年余という臨済宗の寺。境内に縄文時代後期の貝塚があり、隠元禅師の遺品とされる五鈷鈴(ごこれい)や刺繡(ししゅう)の十六羅漢図、不動三尊立像などの市指定文化財も残る。だが、無住の寺になり、40年前に京都の僧堂で修行していた松山住職が招かれた。
「人生の羅針盤になるメッセージを届けたい」。そんな思いから、寺に入るとすぐに掲示板を設け、毎月1日にメッセージを掲げるようになった。古人の格言をそのまま引用するのではなく、自分で文言を考え、黒塗りの板に白ペンキでしたためる。
○く生きるより △に生きよ
周りに気を使い過ぎず、転んでも1点は上を向くように生きろと諭す。
比べっこすると 迷いと苦しみが生じる
自分の人生を他人と比べる愚かさは、その後も何度か記した。
はじめの10年はあまり反応はなかったが、近くの磐田南高校の生徒が楽しみにしていると聞いた時、手応えを感じた。国道で掲示板を見たという人から、離婚の相談などが舞い込むこともある。
ナンバー1でやるか オンリー1でやるか お前はどっちでやる
市内にかつて「オンリーワン」などの名のパチンコ店があり、「和尚さんはパチンコするんですか」と尋ねてきた女性もいたという。
中には快く思わない人もいる。
早起きは3千円の徳
今どき3文では誰も起きないが、1日3千円なら1カ月で10万円近い。だが、そう書いた時、酒に酔った若者たちが「ろくでもないこと書きやがって」と板を割ってしまった。他の掲示に対しても、電話で直接批判してくる人もいるという。
そんな人たちを「お客さん」と呼び、30分でも1時間でもその人が心の澱(よど)みを吐き出すまで、話を聞く。「それが和尚としての妙味だから」