1時間半ほどかけて完成した絵写経=大阪市中央区心斎橋筋2丁目の三津寺
無になれる時間を求める人々が、繁華街のど真ん中に集まって来る。大阪・ミナミの三津寺で月2回開かれる「絵写経の会」。仕事帰りや買い物の合間、友人らとの会食前などに、ふらりと立ち寄り、仏画や経文をなぞって心を静め、また去っていく。
「みってらさん」の名で親しまれる三津寺は、観光客でごった返す戎橋、道頓堀橋から北へ約150メートル。大阪のメインストリート御堂筋に面し、心斎橋筋商店街に挟まれた場所にある。だが、一歩踏み入れると街の喧騒(けんそう)は届かない。奈良時代の僧・行基の建立とされる真言宗の古寺だ。
絵写経の会場は本尊・十一面観音など仏像9体に囲まれた本堂の中。江戸時代後期に建てられたといい、ギシギシと足音が響く。
「うーん、今日は大黒天にしようかな」。先月、水曜の夕暮れ。仕事帰りの会社員河野絵里子さん(32)はA4サイズの和紙を手に取った。会場の本堂にはスーツ姿の60代男性や数珠を手にした40代女性の姿も。人々に交じり、河野さんは元同僚3人とともに絵写経に向き合った。
ふくよかで柔和な表情の仏像の周りには30文字ほどの経文が連なる。本尊や愛染明王などの仏像と経文の組み合わせは15種類ほど。約1時間半かけて薄いグレーの下絵を筆ペンでなぞった。色鉛筆で色もつけて完成すると「うますぎるでしょ」「文字、間違ってないかな」と見せ合い、スマートフォンで撮影していた。
河野さんは4回目。いつもと違うことに集中するとすっきりするので通うように。元同僚も「携帯も見ず無になれる時間は貴重」「スポーツジムに行ったみたいに爽快」と晴れ晴れした表情だった。絵写経の後はいつも晩ごはん。4人はミナミの街へと消えた。
京都市の会社員、岡陽子さん(…