米国各地で21日、地球から見て月が太陽を完全に覆い隠す皆既日食があった。米国本土での観測は38年ぶり。今回は、日食ルートが米国を西から東に横断する形で14州に及び、全米各地で観測イベントが開かれた。各地でおおぜいの人たちが空を仰ぎ、世紀の一瞬に熱狂した。
米国航空宇宙局(NASA)によると、皆既日食は、西海岸のオレゴン州から東海岸のサウスカロライナ州にかけて長さ約4200キロ、幅約110キロの帯状の地域で2分前後、観測された。皆既日食が北米を完全に横断したのは99年ぶりという。
街全体がルートにあたったテネシー州ナッシュビルでは、日本から観測ツアーに参加した約50人が、宇宙飛行士の山崎直子さんや土井隆雄さんとともに太陽が弓形に欠けていく様子を見守った。日食は正午から始まり、午後1時27分から約2分間の皆既状態に。一時雲に太陽が隠れたが、皆既日食の直前に青空に変わった。周囲が夜のように暗くなり、月の影で真っ黒に染まったように見える太陽が現れると、「やばい!」「怖い」「すごすぎる」などと歓声があがった。暗くなった瞬間、空気がひんやりと涼しくなったように感じ、近くの木でセミがいっせいに鳴き始めた。
東京都調布市の医師、西島雄一郎さん(68)は、デジタルカメラを制御するパソコンの専用ソフトを駆使して撮影に成功した。「最高。皆既日食は初めてだが、本当に感動した」。悪天候に見舞われた2009年の皆既日食を見に奄美大島に家族で行ったという東京都の男性(45)は、「ようやく見ることができた」と話した。
国立天文台の縣秀彦・普及室長によると、ナッシュビルでの観測は太陽の位置が高く、大気が薄くなるためコロナやダイヤモンドリングが通例よりはっきり見えたという。「印象に残る日食だった」と語った。
米メディアは、全米の観測会場からライブ中継。NASAは航空機や観測気球も導入し、上空からの中継も行った。人工衛星や国際宇宙ステーションを使った観測も行われた。トランプ大統領もメラニア夫人とともにホワイトハウスのバルコニーから観測した。ワシントンでは約8割が隠れる部分日食が見られた。
ナッシュビルのホテルの庭で水着姿で日食を楽しんだミシガン州の自動車技術者ケン・サハツキさん(54)は、家族4人で車を約7時間半運転して来た。「高校の地学の先生をしている妻は別の場所を推薦したけれど、ナッシュビルに決めた私の判断が正しかった。心が揺さぶられるような、すばらしい瞬間だった」と興奮気味に話した。(ナッシュビル=小林哲)