カード式の納骨堂に父の遺骨を納めた遺族の男性。自宅近くで「お参りしやすい」と、毎週のように手を合わせに訪れるという=吹田市元町(名前にモザイクをかけています)
先祖をどう供養するか。墓が遠いなどの悩みを抱える都会の人が多いなか、カードをかざすとお墓が出てくる最新型の納骨堂を建てた吹田市の寺に、納骨の申し込みが相次いでいる。
寺は735年創建の高野山真言宗「常光円満寺」(藤田昌孝住職)。JR吹田駅から南へ徒歩約10分にあり、今年4月に4階建ての舎利殿を完成させた。カード式の納骨堂はその2、4階にある。
納骨堂の一室は三つのブースに仕切られ、右側の壁に液晶画面とICカードを読み取る板がある。カードをかざし、待つこと約40秒。ブース正面の扉が開き、遺骨を納めた厨子(ずし)が現れた。液晶画面を押すと、故人のスライド写真や動画が音声とともに流れた。墓の形をした厨子は68万円と88万円の2種類ある。これに年間管理料が1万円かかる。寺の僧侶が毎日、お経を唱えている。
寺によると、「遠方で墓参りが難しい」「お墓を守る跡継ぎがいない」といった理由で、納骨の申し込みが相次いでいる。境内に、約400基の墓(墓石込みで約300万円~)があるがほぼ満杯。2011年、本堂奥に5段式のロッカー型納骨堂(80区画)をこしらえたが、15年にいっぱいになった。東京都内の寺院を視察し、納骨堂を備えた舎利殿を建設することにした。
舎利殿内のカード式納骨堂は1780基の受け入れが可能で、これまでに250件を超す申し込みがあった。3階につくった計240柱を納める通常の仏壇型とロッカー型の納骨堂にも約60件の申し込みがあったという。
吹田市の元建設業の男性(47)は、今年1月に亡くした父(当時76)をお参りするため、カード式の納骨堂を毎週訪れている。
急死したこともあり、父から生前に墓の希望を聞いていなかった。奈良に先祖の墓があるが、父は次男で墓守の必要がない。母も71歳になり、将来を考えると頻繁に墓参りできない。葬儀会社に相談したところ、この納骨堂を紹介された。男性は「いつでも気軽にお参りできるのが決め手となった」と話す。
納骨堂は年中無休で午前9時から午後8時まで開いていて、仕事帰りにお参りする遺族も多いという。副住職の藤田晃秀さん(43)は「お墓のかたちよりも、故人を思う心が一番大切」と話す。仮に家族が途絶えても、境内の供養塔に合葬して寺が永代供養するという。(室矢英樹)