糖質オフ商品と市場規模の推移
糖質カットのため、シャリの代わりに大根を使ったすしが売り出された。貧しさから、腹を膨らませるために「おしん」が食べていた大根めしは、はるかかなたのこと。飽食の時代にあえて食べる、その背景は?
8月末に回転ずしチェーン「くら寿司」が売り出したばかりの「すし」を食べた。ネタのエビの下には厚さ5ミリ、幅2ミリほどの大根の酢漬け。大根はシャキシャキした歯触りで、エビの味が際立つように感じる。が、すしというより海鮮サラダのような……。糖質を88%カットしたといい、手巻きずし風など、糖質カットをうたう計10商品を展開中だ。
回転ずしと言えば、シャリだけを食べ残した皿の画像がSNSで拡散され、その是非を巡って話題になった。くら寿司を運営するくらコーポレーションによると、ここ数年、コメ部分の「シャリを少なめに」との要望が増え、約2年前から新メニューを考えていた。
最初はネタにパプリカやしいたけなどを検討したが、同様の商品がすでにあり、ありきたりとの声が出た。そこで、ネタではなく、いっそシャリを野菜に、という「逆転の発想」が生まれた。大根は刺し身のツマにも使われ、素材と合う。食べやすい厚さを吟味し、砂糖やゆずコショウなどを加えた特製の合わせ酢を作った。
商品発表では「新感覚のおすし」と紹介されたが、担当者は「サラダと思ってもらっていい。お父さんはダイエット中だからこっち、など、選択肢を増やして選ぶ楽しみを提供したい」。
糖質オフをうたった商品は最近、相次いで売り出されている。牛丼チェーン「松屋」は、定食のライスを湯豆腐(現在は冷や豆腐)に変更できるサービスを1月に開始。ファミリーレストラン「ガスト」では、ホウレン草などを練り込み、中華麺より糖質25%減という自家製麺を6月からメニューに加えた。
糖質オフが広がる背景には、2003年ごろ、米国で低糖質ダイエットが大流行したことがある。07年には、アサヒビールが初めて糖質ゼロの発泡酒を発売。市場調査を行う富士経済によると、「糖質オフ・ゼロ」とうたう食品の市場規模は、12年の2468億円から16年(見込み)は3431億円と4割伸びた。
15年の厚生労働省の調査では、メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)が強く疑われる成人男性は推計で29%、女性は10・6%。健康を扱う雑誌「ターザン」では、10年ほど前から糖質オフ商品の紹介を始め、12年に糖尿病と低炭水化物食の関係が学会で取り上げられたことをきっかけに、何度も特集している。大田原透編集長は「コメは我慢しても、肉などは食べていい手軽さが受けた。外食産業も、糖質オフに取り組まないと企業イメージが悪くなる状況が生まれているのでは」と分析する。
糖質を制限する食事は糖尿病患者への治療の観点から生まれたというが、効果の評価は定まっていない。日本糖尿病学会は13年、「現時点では糖尿病患者に勧められない」との提言を出した。予防効果も結論は出ていないという。ダイエット効果について、佐々木敏・東大教授(社会予防疫学)は「糖質制限で減らしたカロリーを脂質など他のもので補わなければ効果はある」としつつ、「『ご飯ものを減らしたからおかずをもう一皿』となると本末転倒です」。脂質制限でも同様に体重は減らせるといい、「一方で、日本人の食生活で最もリスクが高いのは塩分。糖質を減らしても、味付けに塩分を多く使えば、がんや脳卒中など命に関わるリスクが上がるので注意が必要」と指摘する。(小林恵士)