朝日新聞デジタルのフォーラムアンケ―ト
お金を払ってでも処分したい物件、所有者不明で塩漬けになっている土地、取り壊しもできないまま朽ちていくマンションなどを取り上げたシリーズ「負動産時代」。読者からの情報をもとに、記者が現場を取材しました。朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた声も紹介しながら、「負動産」の問題を考えていきます。
【アンケート】負動産の時代
■重荷に苦悩 制度変えて
シリーズ「負動産時代」やアンケートに寄せられた声を紹介します。
◇
●「空き家になって20年の実家が京都府北部にあります。市の空き家バンクに3年前に売却希望を登録し、2、3件引き合いがあったものの縁はなく、最近になって相続移転登記がされていないことを理由に掲載が打ち切られました。草刈りだけで年間10万円近くかかります。今後、税金を滞納して差し押さえしてもらった方が得策ではないかとも考えます。売りたくても売れない家や土地を、これ以上荒らさないように所有者を支援する仕組みづくりをしてもらいたいです」(神奈川県 水谷隆さん 60歳)
●30年前は不動産を持つことが安心、安全、ステータスと思っていたが、今の時代、逆に負担、重荷、不自由な点が目立つ。やたらと寿命が延びてしまったからだろう。(奈良県・50代女性)
●「いま問題視されているのは、所有していても利用されないことであって、空き地や空き家はもってのほかだと思う。理由なく放置すれば国庫のものとするなど、法律を変えて対応することを望む」(福島県・70代男性)
●「父が亡くなった19年前に農地を相続しました。私は農業をしておらず、子供2人は独立しています。私たち夫婦が亡くなると不在地主になる可能性が高く、生きているうちに農地を処分したいと思っていますが、売りたくても売れません。がんじがらめの農地法をすぐにでも変える時期に来ていると考えています」(愛知県・60代男性)
●「購入により、ペットを飼ったり趣味の大物を置いたり家の中を自由に使うことができる。費用総計で賃貸と変わらないか安い場合も多いなどのメリットがあるので、個人的には今家を所有していることにデメリットを感じない」(東京都・40代男性)
●「既に一戸建てを所有しているが、2020年以降の土地の値下がりが気になっている」(神奈川県・30代男性)
●「母が祖父から相続して100坪の生産緑地を耕していましたが、年を重ねて思うように管理できません。代わって夫が週末に草抜きや畑をやっていますが、持て余しており、かといって市民農園にすることもできず、水道や道路もないので宅地にできません。寄付できず、不要な土地に税金を払うと考えただけでうんざりします」(東京都 田中ナオミさん 54歳)
●「年金を主たる収入として暮らすようになったとき、持ち家なら安心だと考えてきた。家賃はばかにならないし、高齢者になると借りられないとも聞く。しかし、家のメンテナンスにはお金もかかるし、肉体的にもきつくなる、処分しようとしたときにどの程度の価値があるのかも疑問である。この先どれくらい元気に生きられるか考えながら、頭を悩ませている」(東京都・50代女性)
●「今後人口が減り、家は余る。コンパクトな生活を送るためにはミニマムな不動産を利用することが理想。子供に負動産を残さぬよう、自分の代で始末をつけたい」(大阪府・50代女性)
■駅前に店ゼロ 募る不安 JR安中榛名駅近くの大規模分譲地
「私が居住する地も、まさに負動産時代を迎えようとしています」。シリーズ「負動産時代」の記事を8月に掲載したところ、JR北陸新幹線の安中榛名駅(群馬県安中市)近くに住む女性(62)から取材班にメールが寄せられました。JR東日本がかつて大々的に売り出した大規模分譲地は、今どうなっているのでしょうか。記者が現地を訪ねました。
女性は、第二の人生を田舎で暮らそうと、夫婦で分譲地に移り住みました。駅前の空き地には、いずれ商業施設が入る予定だと、不動産の仲介業者から聞かされていたといいます。ところが売買契約をした直後の2013年、駅前唯一の商業施設だったコンビニが撤退しました。最寄りの商業施設までの距離は約5キロ。「過ごしやすい気候で、水もおいしく眺めもいい。でも、ここは別荘地でなく定住地。近所の人が集まってお茶をするような場もなく、まちの成長を感じられない。将来が不安です」と女性は言います。
安中榛名駅に新幹線が止まるのは朝夕は1時間に1本、昼間は2時間に1本。JR東日本管内の新幹線の駅では、1日の平均乗車数が2番目に少ないといいます。改札を抜けると、目の前には駐車場と広大な空き地が広がっていました。
分譲地に住む男性(73)は昨年、視力が低下したため自動車の運転をやめました。同居する娘が車を運転してくれますが、市街地まで5キロ以上離れており、本数の少ないバスで買い物に行くとなれば半日がかりになるそうです。かつて住民有志でスーパーの誘致に動いたこともあったそうですが、「商圏が小さい」と断られたということです。
最近、足腰が弱って自宅のスロープが上がれなくなったり、進まない駅前開発に業を煮やしたりして、近所の高齢世帯がぽつりぽつりと転居していくのを見て不安が募るそうです。売却地の看板も目立ちます。地元に詳しい不動産業者によると、分かる範囲だけで40件以上が売りに出され、販売価格が当初から5分の1近くに下がった区画もあるといいます。
首都圏在住の時、JRの中づり広告で興味を持ち、移住したという男性は「販売センターで駅前にはスーパーや病院が建つ予定だと説明され、住民が増えれば新幹線の本数も増えるとも言われていました。でも何も実現していません」と話します。
JR東日本が「定住型リゾートシティー」として丘陵地を開発し、駅周辺の分譲地の販売を始めたのは03年。パンフレットには新幹線で「東京から直通59分」「軽井沢は隣駅10分」と利便性が強調されていました。しかし駅前の分譲地の販売センターは13年に閉鎖。同じ建物内にあったコンビニの撤退も閉鎖に伴うものでした。空き家になった建物は安中市に譲渡されましたが、「何に使うかはまだ決まっていない」(市企画課)といいます。
JR東日本に取材を申し込むと、「昨年までに601区画を完売しました。年45区画という販売ペースは他の郊外物件と比較するといいペースだったと評価しています。今後とも街づくりで、事業者としてできることがあれば協力していきたいと考えています」(広報部)との回答がありました。
人口や都市問題に詳しい東京都市大の宇都正哲(うとまさあき)教授(都市工学)は「大規模な宅地開発は、行政がしっかり事業者と連携してコントロールするべきです。街づくりには、住民が高齢化したときの介護問題への備えも必要」と話しています。(大津智義)
■人口減 それでも増え続ける住宅
放棄したくてもできない、あるいは市場価値が落ちたのに税負担や管理コストが重くのしかかる土地やマンションなど「負動産」の実態をこの半年間、取材してきました。
高度成長期からバブル期にかけ、多くの国民は「不動産の価値は上がり続ける」と信じて疑いませんでした。「夢のマイホーム」を求めて宅地はどんどん郊外に広がっていき、乱開発とも言えるリゾート開発も同時に進みました。
しかし、本格的な人口減時代に突入し、波が引くように地方や都市郊外で土地が余り始めています。ほとんど値がつかず、実質的にお金を払って処分された別荘地や、朽ちかけても何の手も打てない郊外のマンションを取材し、かつての無秩序な開発が招いた「ツケ」が回ってきていると感じました。
それでも総務省の調査で総住宅数は増え続けています。東京湾岸など都心部では、タワーマンションが続々と建っています。
でも、それは将来にわたる持続性を考えた開発と言えるでしょうか。一つの建物に何百人も住むタワーマンションは所有権を細かく区分しているため、大規模な修繕や建て替えの際に意見が合わず、老朽化したときに手の打ちようがなくなると指摘する専門家もいます。
2025年には団塊の世代が70代後半になり、「大相続時代」がやってきます。50年には日本の人口が1億人を割り込むとの推計もあります。でも日本の住宅政策は作りっぱなし、売りっぱなし、という従来のスタンスのままのように見えます。子や孫の世代に禍根を残さないような不動産との向き合い方について、みなさんと一緒に考えていきたいと思います。
◇