吉田(左)は白いチャンピオンベルトを巻き、娘の実衣菜ちゃんを抱いた=後楽園ホール
戦うシングルマザーが初代女子日本王者になった。日本ボクシングコミッション(JBC)が創設した女子の日本タイトル戦が6日、東京・後楽園ホールであった。5階級のうちの最初の試合として行われたバンタム級王座戦で、吉田実代(29=EBISU K’s BOX)が3―0の判定勝ちで王者になった。
戦うシングルマザー、初代日本王座をかけたリングへ
吉田が夢にまで見た光景だった。ファッションモデルも兼ねて知名度のある高野人母美(30=協栄)との勝負は判定へ。ジャッジ3人とも1点差で吉田を支持した。白いベルトを巻き、リングの上で娘の実衣菜(みいな)ちゃん(2)を抱いた。「やってきたことが形になってうれしい」。腫れ上がった両目から涙がこぼれた。
身長161センチの吉田より、対戦相手の高野は約15センチ高い。頭から突っ込んで距離を詰め、接近戦に持ち込んだ。2分6ラウンドの最終回も相打ち覚悟で倒しに行った。「スタミナには自信があったので最後まで攻めきろうと思った」。判定を聞く前に勝ちを確信した。
プロデビュー戦を勝利で飾った後、結婚し、2015年4月に実衣菜ちゃんが産まれた。昨年、出産から1年足らずで復帰すると、ほぼ2カ月間隔で5試合した。プロの世界ではあまりないハイペースだ。「出産のブランクがあるから、今なら勝てるだろうと対戦希望が殺到したんですよ」
私生活では離婚を経験し、精神的につらい時期でもあったが、試合からは逃げなかった。その5試合は4勝1敗で、敗れた相手にも後に雪辱を果たした。スポーツトレーナーとして生計を立てながら、娘を育て、練習を重ねる日々。10分でも空き時間があれば走った。それがスタミナの裏付けだ。ジムの加山利治会長は言う。「子供ができて全てに真面目になった。どんな試合でも受けたし、強い相手と戦ってきた。それが苦しい場面で生きた」
キックボクシングなどの競技歴もあり、世界4階級制覇を果たした藤岡奈穂子(42)にあこがれてプロボクシングに転向した。娘に試合を見せたのは今回が初めてだ。新王者は「私みたいな選手がいることも知ってもらい、選手が増えるといい。かっこいい藤岡さんに近づきたい。もっと上をめざします」と語った。(伊藤雅哉)