建設工事が進む新国立競技場=7月、朝日新聞社ヘリから
2020年東京五輪・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の建設工事に従事していた現場監督の男性(当時23)が自殺した問題で、男性と同じ工事現場で働いていた2人の現場監督が朝日新聞の取材に応じた。短い工期の中で、人手が足りずに業務の負担が増えていった現場の実態を語った。(贄川俊)
■残業193時間「身も心も限界」
「新人なのに、通常の2倍以上の仕事を任されていた。いくら何でもさばききれるはずがない」。取材に応じた現場監督の1人は、自殺した男性が任されていた当時の業務についてこう振り返る。
この現場監督によると、男性は建設工事を受注した大成建設などの共同企業体(JV)の1次下請けの建設会社に昨春に入社。工事が始まった昨年12月ごろ、新国立競技場の工事の現場監督に配属された。
工事は、くい打ち機で穴を掘り、セメントと土を混ぜて基礎をつくる地盤改良。当初は1台のくい打ち機について、職人やデータの管理やセメントの手配などをしていた。
建設計画の見直しもあって、新国立競技場の建設工事の着工は当初予定より1年2カ月遅れた。さらに、職人の手配ができなかったり、ダンプカーや残土が邪魔でくい打ち機を移動させられなかったりしたことなどで、作業工程は遅れていったという。
今年初めには、遅れを取り戻すためにくい打ち機が増えた。別の現場に同僚の男性が異動し、現場監督が1人減ったこともあって、男性が1人で複数のくい打ち機を監督することが常態化していった。土日に現場に来ることも頻繁にあったという。
作業は2月ごろがピークだったとみられる。厚生労働省の関係者は「新国立競技場の工事では、2月に入ってから多くの企業で残業時間が急増していたようだ。工期に追われていたのではないか」と話す。
男性はこのころ、早朝5時に車で出勤して車内で仮眠し、深夜0時過ぎに帰るといった日々を送っていた。勤めていた建設会社側の調査では、2月の残業時間は193時間だった。話しかけても視点が定まらなかったり、周囲に「こんなこと早く辞めたい」と漏らしたりすることもあった。
「人手が足りないから、作業もうまく回らずに工程が遅れ、余計に長時間労働を強いられていく。みんな疲労でいらいらして、悪循環の現場だった」とこの現場監督は振り返る。
男性は、3月2日に失踪し、4月15日に長野県内で自殺した状態で見つかった。遺体のそばには自筆のメモがあった。
「身も心も限界な私はこのよう…