池田動物園が裏山に設置した監視カメラに、職員が置いた干し草などを食べるシカが映った=7月2日、池田動物園提供
岡山市北区の池田動物園のニホンジカが6月に逃げ出し、10月に捕まった。騒動を起こした「犯鹿」は今、再び園で、何事もなかったかのように暮らしている。4カ月間にわたる逃走の間、何があったのか。鹿と動物園職員の逃走と追跡の軌跡を関係者への取材で再現した。
【始まり】
6月13日の朝。飼育係長で、ニホンジカの飼育を担当する鵜島(うのしま)基博さん(48)が餌やりに飼育舎に入った。
十数頭いる鹿に干し草をやり終えた鵜島さんが、出ようと体の向きを変えた時、手に持っていた空の餌箱が一番人なれしている雄鹿の尻にぶつかった。
「すぐに終わる」という気軽な気持ちから、この作業の時はいつも扉を開けっ放しにしていた。その扉から、鹿は外へ飛び出した。裏山につながる鹿舎横の斜面を駆け上り、有刺鉄線を飛び越えて山中へ姿を消した。
園の周りに野生の鹿はいない。園の周りにいるとすれば、うちの鹿だ。「捜そう」。長い鹿捜しの日々が始まった。
【捜索】
脱走から数日間、職員や警察官など最大20人ほどで裏山を捜したが、足跡すら見つからない。鹿が、裏山に10匹以上いると言われる野犬の餌食にならないか。職員たちは心配した。
6月下旬以降、鵜島さんらは、業務の合間を縫って鹿を追った。時に野犬に追われながら、麻酔銃を手に裏山や周辺を捜した。
翌7月になると「鹿が畑の作物を食べている」といった目撃情報が、園の近隣住民から相次いだ。鵜島さんも捜索中に何度か見た。だが、すぐ逃げられたり、木立が邪魔をして銃を撃てなかったり。撃てた時でも、射程の約5メートルより遠く、麻酔薬入りの注射筒が刺さらなかった。
【2度の失敗】
8月21日。民家に現れた鹿を3人の職員で囲み、鵜島さんが注射筒を首のあたりに命中させた。近距離で撃てた数少ないチャンスだった。
だが、麻酔の効き目は5~10分経たないと表れず、小一時間で切れる。山中へ逃げて眠ったはずの鹿を見つけられなかった。
9月4日。鹿がしょっちゅう立…