狙った遺伝子を改変できるゲノム編集でヒト受精卵を操作する研究について、政府の生命倫理専門調査会の専門家会議は20日、基礎研究に限り条件付きで認める方針を盛り込んだ報告書を取りまとめた。不妊治療などの研究でゲノム編集への期待が高まっていることから、文部科学省や厚生労働省に具体的な研究指針作りを急ぐよう求めている。
報告書は、不妊治療で余った受精卵に限りゲノム編集を認め、不妊治療の成功率の向上などにつながる基礎研究に道を開く内容だ。ただ、研究目的で新たに受精卵を作ることは禁止し、当面は研究機関の倫理委員会の審査だけでなく、国による確認も事前に受けるべきだと指摘した。
一方、改変した受精卵を子宮に戻すことについては、子孫に与える影響などが分かっておらず、安全性や倫理面から「容認できない」とした。がんや遺伝性疾患の研究への応用については、関連学会がゲノム編集の効果や是非を精査した上で、速やかに検討を始める、とした。
関係省庁に指針作りの早期着手を求めた背景には、受精卵を使った基礎的研究などを包括的に規制する国のルールがないことがある。ゲノム編集は従来より格段に効率がよく操作も簡単なため、一部のクリニックが臨床研究名目で実施に踏み切る可能性もある。将来、親が望む容姿や資質を持つ子どもを産む「デザイナーベビー」につながる懸念もある。
ヒト受精卵のゲノム編集は、中国や米国で基礎研究レベルでの実施例が報告されている。(杉本崇)