「被差別部落出身と語ることで、その地区や自分の家族が差別されるリスクもある」。ABDARCのイベントでは、カミングアウトをめぐる悩みや葛藤を話し合った=9月、東京都渋谷区
部落差別は昔のこと、私には関係ない――。そう考える人がいるかもしれません。しかし最近は、ネットで情報を拡散する新たな形の差別が生まれています。一方、被差別部落の問題や暮らしの「いま」を知ってほしいと、出身者らがネットで発信し、緩やかなつながりを広げています。
「正しい情報を」出身者らが発信
2011年に開設されたサイト「BURAKU HERITAGE(ヘリテージ、BH)」は、個々人の体験や思いを軸に、被差別部落に関わる多彩な情報を掲載している。ヘリテージとは、受け継いでいく遺産や伝統という意味。差別の問題だけでなく、その土地の人や文化についても伝えている。
東京や大阪に住む30~50代の男女8人が運営する。被差別部落出身者や研究者、NPO職員など立場は様々だ。立ち上げメンバーのひとり、東京都の上川多実さん(37)は両親が被差別部落出身。「私たちはそれぞれの暮らしのなかで部落問題にぶつかったり悩んだりしている。『わたし』という個人の顔で発信することで、差別しにくくなれば」と話す。
きっかけは長女(9)が生まれたことだった。就職や結婚で差別を受けないか不安だった自身を振り返り、「私1人なら乗り越えられる。でも、子どもが差別に遭ったらどうするのか。どう伝えるのか」と考え始めた。ネットで「部落」を検索すると、地名や出身者を暴く、うそや差別的な情報が次々に表示された。正しい情報を発信しなければと考えた。
BHのサイトには、被差別部落に関わる本の紹介や、メンバーが体験や思いを語り合う「テーマトーク」がある。葛藤も素直に表現し、暮らしや気持ちに変化があれば、書き加えていきたいという。
13年末から、東京と大阪で年1回ずつをめどに交流会を開く。被差別部落に関心を持った20~30人が毎回参加する。今年、大阪の交流会では、みんなで「部落」「同和」をネットで検索してみた。出てきた情報を目にした参加者が共に憤ってくれる様子に、上川さんは気が楽になった。「立場の異なる人たちが気持ちを共有することから始めたい」と話す。
BH「テーマトーク」の一例
◇差別的な言動にどう対処?
・「確実にその場では対処できないです…今のところ」
・「ショックでした。言われたことよりも、とっさに言い返せなかった自分に」
◇あなたの好きな部落の食べ物は?
・「さいぼし! 馬肉の燻製(くんせい)。ビールにめっちゃ合う」
・「『これ(油かす)を食べてることは言ったらあかんでぇ~』と母から言われていました。(中略)ちょっぴり切ない我が家のソウルフードです」
◇部落問題に関わっていてよかったことは?
・「差別や、社会で起きている“おかしなこと”に対して、問題意識のアンテナが立つようになったこと」
・「社会的な課題に真摯(しんし)に取り組む人たちとたくさん出会えたこと」
■カクテル飲みながら「部落…