「春の甲子園」、高校野球の第90回記念選抜大会が23日に開幕します。そして「夏の甲子園」、全国高校野球選手権大会は今夏、第100回記念大会を迎えます。高校野球の魅力はどこにあるのか、改善したいと思う部分はどこにあるのか。高校野球のこれからを、みなさんと考えていきます。
【アンケート】高校野球、どう思う?
重なる「青春」 敗者に共感
朝日新聞デジタルのアンケートで、高校野球の魅力を挙げた声を紹介します。
●「高校時代、恋人は甲子園、私はインターハイと全国を夢見て、互いに切磋琢磨(せっさたくま)していた。練習に明け暮れる生活は、普通の高校生らしいものとは全く異なっていたが、彼らの野球に対する姿勢、努力する姿は私にとって、刺激であり励みだった。互いに夢をかなえて最高の思い出をつくることができたが、本気で泣いて、笑った青春時代は何にも代え難い宝物だと思う。今でも、毎年、甲子園でプレーする高校生をみて、胸が熱くなる。きっと、多くの人がひたむきなプレーと筋書きのないドラマに心を揺さぶられているでしょう。高校球児の皆さんには、野球ができることに感謝し、仲間とのすばらしい時間を、悔いのないよう大切に過ごしてほしいと思います」(鹿児島県・40代女性)
●「夏の甲子園の県予選で、試合に出られなかった悔しい思い出がその後の自分の頑張りの原動力の一つになりました。高校野球を見ると、レギュラー目指して一生懸命走ったあの頃を思いだして今でも胸がちょっと熱くなります」(長野県・40代男性)
●「昨春から社会人となった23歳の長男が野球留学で山形の高校でお世話になりました。厳しい練習と寮生活の中でかけがえのない経験ができました。甲子園には行けませんでしたが、ずっとベンチ入りメンバーで、スタメン起用は少なく守備固めやランコーでの起用の中、腐らず自分の使命を果たしやりきった長男の姿に親バカですが心を打たれました。この貴重な経験が社会人となった長男の何があってもくじけない負けじ魂となっています。人生はスポットライトを浴びるだけじゃない縁の下で支える存在が大切だと身をもって学び、心身ともに立派に成長してくれました。野球道を15年間貫いた長男にあらためて『よくやった!』とほめてやりたいです」(大阪府・50代女性)
●「引きこもっていた時期に、テレビの前で高校野球に釘付けになりました。ドラマチックな試合にドキドキして、自分も生きていると感じられる。すごく勇気付けられました」(奈良県・30代女性)
●「2年半という限られた時間の中で負けない高校はただ一つ。もちろん勝者が主役であるが敗者が人々の共感を生み、感性へと訴える部分で一番の魅力。また郷土の代表、多くの人が経験をしている高校生という青春の時間はある種、それぞれの思い出を振り返る記憶装置となっている」(愛知県・20代男性)
地元出身 少なくがっかり
アンケートには高校野球の課題を挙げる声も寄せられました。
●「中学時代にいわゆる強豪リトルシニアのチームに息子が所属していました。三年間を通して背番号1桁(レギュラー)で使って頂きました。三年生の春先には複数の高校から特待・推薦のオファーを頂いていました。しかし息子は全ての誘いを断り、『坊主頭にするのが嫌だ』との理由で野球の道を絶ちました。坊主頭にしなければならないという旧態依然とした習慣を払拭(ふっしょく)しない限り、プレーヤー人口は減少していくと思います」(千葉県・50代男性)
●「私は野球好きですが、高校野球は見ません。若さが出るので、それがこの大舞台で……。見ていて切なくなります。プロ野球ぐらい毎日試合をしていれば、ミスにも『何やっているんだ』とヤジを飛ばすこともできますが、このミスで野球を終える子どもたちがいると思うとひどいなと思うのです。スター選手の取り上げ方も他の競技とは違って、子どもたちに勘違いをさせかねないと思います」(宮城県・40代女性)
●「高校野球は教育の一環であるように思う。努力する力、成功・失敗体験、継続力、チームワーク、計画性など様々なことを学べる機会があふれていると思う。高校生という時期にひたむきに目標に向かって努力することは、勝敗に関係なくその後の人生の糧になると実感する。しかし一方で、野球を頑張っていることを理由に勉強がおろそかになってしまうことが許されることは改善すべき点であると思う。さらには女子が公式戦に出場できないことも改善すべき点の一つだ。伝統や歴史は大切だが、時代に合わせたやり方でこれから高校野球を変えていく必要があると思う」(愛知県・20代男性)
●「地元(宮城県)の学校が活躍するのはうれしく思いますが、高校生なのに地元中学出身者があまりに少ないのにがっかりします。強さを維持するために選手を集めるのはいかがなものでしょうか。毎年新しい生徒が入学し卒業していくのだから毎年違う高校が出場しても良さそうなのに。それとあわせて注目選手ばかり取り上げチヤホヤするのにも疑問を感じます。先のプロ野球の道とは別にして欲しいなと思います。ドラフトを意識させず一生懸命でひたむきな姿に感動するのだと思いますので、報道の仕方も変えた方が良いのでは?と思う時もあります」(宮城県・40代女性)
●「私は、野球をやめた者です。理由は人間関係と体力面でした。試合には出ていたので技術には多少の自信がありましたが、高校野球特有の集団主義的な厳しい練習についていけず、『お前はできるのにワザとやらない』『妥協している』と毎日のように練習内外で言われ続け耐えられませんでした。また、古風な練習スタイルで『水を飲まない』『褒めない』『笑わない』『チャレンジを許さない』『技術指導なし』『質より量』等が私の性格や好きな野球とは合いませんでした。今私はクラブチーム創設を目標にしています。野球は高校野球だけではありません。野球を自由に楽しく勝ち逃げし次のキャリアへ向かう。そんなチームを目指しています」(神奈川県・20代男性)
何を受け継ぎ 何を変えるか
今回のアンケートでは、良いところ、良くないところ、改善すべき点を尋ねています。競技を問わず、中高の部活動に共通する要素でしょう。
高校野球が夏の甲子園で行っている都道府県の代表によるトーナメント制は、その他の団体競技の全国大会でも多く採り入れられています。
ひたむきさ、みんなで戦う姿勢、地域の代表の活躍、手に汗握る試合といった長所も、野球に限ったことではありません。
一方で、長時間の練習や勝利至上主義、指導者の暴力的な言動、そしてスポーツさえやっていればいいという学業軽視の風潮などは、中高の部活動について総合的なガイドラインづくりを進めてきたスポーツ庁の有識者会議でも、課題としてあがってきました。このガイドラインは、活動時間を「長くとも平日2時間、休日は3時間程度」とし、「週2日以上」の休養日を設けるなど、3月中に正式にまとまる予定です。
また、徹底した熱中症対策は、やはり夏休み中に行われる全国高校総体や全国中学校大会で欠かせません。スポーツ推薦による特待生も、各競技にいます。
フォーラム面では一昨年と昨年、中学の部活動について考えてきました。今回、学校スポーツの「代表格」である高校野球を取りあげ、何を受け継ぎ、何を変えればいいのかを探ることは、運動部活動全体、ひいてはスポーツの在り方を考えることにつながると思います。そんな広い視野からも、さらに皆さんのご意見をお待ちしています。(編集委員・中小路徹)
障害予防 タイブレーク制に
全国高校野球選手権大会は1915(大正4)年に全国中等学校優勝野球大会として始まり、トーナメント制の大会として続いてきました。朝日新聞社がつくり、戦後、新たに設立された日本高校野球連盟とともに主催しています。現在は約4千校が参加し、一度も負けなかったチームが全国の頂点に立ちます。
地方大会の大半は7月に実施され、全国大会は、夏季休暇に合わせ、8月に阪神甲子園球場(兵庫県西宮市)で開催されます。入場者数は、昨夏の全国大会が14日間で82万7千人でした。80万人を超えるのは、過去最長の10年連続となりました。
日本高校野球連盟は1990年代から選手の障害予防に本格的に取り組み、全国大会で理学療法士によるサポートや整形外科医による投手の検診などを実施。全国の地方大会にも広がっています。延長戦の回数制限も18回から15回に短縮し、今年からは再試合をしないタイブレーク制が導入されます。熱中症の予防対策として、スポーツ飲料の準備や冷風機の設置などもしてきました。
かつてプロ野球による高校生の引き抜きがあったことなどから、プロ経験者による指導は長く制限されてきました。5年前からは教員になった元プロだけでなく、一定の研修を受ければ誰でも指導することができるようになりました。野球技能が優れた生徒の入学金や授業料を免除する野球特待生制度は、2012年度の入学生から導入されました。1学年5人以内という条件なども含めて賛否があります。(編集委員・安藤嘉浩)
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