男児が亡くなった事故の現場。横断歩道の白線が消えかかっていた=西宮市山口町中野1丁目
横断歩道では歩行者が優先――。道路交通法38条の規定にもかかわらず、車が止まらない。兵庫県西宮市で1月、横断中の男児(5)が車にはねられ死亡した事故をきっかけに、県警が緊急の取り締まりを実施すると、摘発件数は16日間で1668件にのぼった。
5歳が車にはねられ死亡 1人で買い物途中 兵庫・西宮
田畑に囲まれた西宮市北部の住宅地を、片側1車線の県道が南北に貫く。
1月13日午後5時20分ごろ、横断歩道を渡っていた男児が乗用車にはねられ、亡くなった。西宮署によると、近くの自宅からアイスクリームを買いに行く途中だった。事故の直前、左右を見て県道を渡ろうとする様子が目撃されていたという。
記者が現場を訪ねた。
信号機はないが、道路はまっすぐで見通しはよい。発生時刻はちょうど日没のころ。横断歩道の白線は薄れて見えにくい。
周辺を歩いている間も、車やトラックが次々に行き交った。県道を渡ろうと、横断歩道にさしかかった女性がいたが、車はスピードを緩めず通り過ぎていく。女性は数台見送り、ようやく渡った。
近くの70代女性は「いつも車は止まってくれない」と嘆く。「横断歩道は見えにくいし、信号があれば安全に渡れるのに」(山田暢史)
県警、16日間で違反1668件摘発
道交法38条は、横断歩道を渡っていたり、渡ろうとしていたりする歩行者らがいるとき、車両は直前で一時停止をしなければならないと定めている。
県警は事故を受け、1月16~31日、信号機のない横断歩道に警察官を派遣。県内全域で取り締まりにあたった。
その結果、38条違反で1668件を摘発。わずか16日間で、昨年1年間の摘発数3893件の4割以上にのぼった。地域別では、阪神576件▽神戸420件▽西播181件▽東播141件▽淡路45件▽但馬24件だった。
全国的に見てもドライバーによる横断歩道でのルールが守られていない。
日本自動車連盟(JAF)が昨年8月15日から1カ月間、全国94カ所の信号機のない横断歩道で実地調査をしたところ、歩行者が渡ろうとしているときに一時停止した車は1万251台のうち、8・5%の867台にとどまったという。
「横断歩道での歩行者優先は、マナーではなくルールです」と県警交通企画課の担当者。ドライバーに改めて認識してもらうため、今後も横断歩道での取り締まりを続けていくという。(川田惇史)
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〈道路交通法38条〉 車両等は、横断歩道に接近する場合には、直前で停止することができるような速度で進行しなければならない。歩行者があるときは、横断歩道の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。