報道公開された御園座の内部=名古屋市中区
4月1日に新劇場となって5年ぶりに再オープンする御園座(名古屋市中区)。こけら落としは、歌舞伎俳優の二代目松本白鸚(はくおう)、十代目松本幸四郎による襲名披露興行が飾る。長年歌舞伎の制作に携わり、御園座の社外取締役でもある松竹の安孫子正・副社長に今後の展望について聞いた。
名古屋駅、変わりゆく街
――こけら落としは「高麗屋」襲名披露興行となります。
御園座は、戦後の苦しいときに歌舞伎公演に呼んでくださって、その恩義は今の歌舞伎俳優たちも感じている。白鸚さんや中村吉右衛門さんは、御園座に子どものころからの思い出がある。そういう一番ご縁のある方が集う公演になった。歌舞伎の楽しさ、明るさ、本当の面白さを見ていただきたい。
――古典だけでなく、5月にスーパー歌舞伎Ⅱ「ワンピース」、6月には名古屋初の滝沢歌舞伎も控えていますね。
新しい御園座での公演にひとつのコンセプトを作った方がいいと思った。まず400年続いてきた古典歌舞伎。そこから出てきたスーパー歌舞伎。そして新しい滝沢歌舞伎。
今ある歌舞伎も、出雲の阿国(おくに)の念仏踊り、歌舞伎踊りが写実的になり、演劇的要素が強くなり、劇場に定着してできてきたもの。だから私は、いま世の中を席巻しているパフォーマンスはすべて歌舞伎のもとだと思っている。滝沢歌舞伎も、ひょっとすると100年後に別の歌舞伎になっているかもしれない。「現代」を意識することが歌舞伎にとって大事なので、その3段階を御園座のコンセプトにしたかった。
――御園座の新劇場はワイヤアクションの設備なども新設されます。
前の御園座よりひと回り小さくなったが、舞台と客席が近いし、ものすごい迫力が出るパフォーマンスになるのでは。スーパー歌舞伎も滝沢歌舞伎も水を使い、宙乗りもある。ハード面が新しくなれば演出も変わってくる。いま考えられる、新しい技術を使ったいろんな演出になる。
――名古屋は「三座」のうち、名鉄ホールがなくなり、3月には中日劇場が閉じ、4月から御園座だけになります。演劇人口の減少を食い止めるにはどうすればよいのでしょう。
従来のお客さんだけでなく、新しいお客さんにどう呼びかけていくか。若い世代に劇場に来てもらう習慣をつけることが大事。
滝沢歌舞伎をやる狙いもそこにある。ジャニーズの人たちは若い人たちを劇場に連れてくる力がある。テレビや映画で人気のある人のファンでも、8千円とか1万円のお金を出して生のパフォーマンスを見ることはなかなかできない。ジャニーズのファンはお金を出して生のパフォーマンスを見る習慣がある。
スーパー歌舞伎も、若いお客さんにどうしたら劇場に来ていただけるかを意識した。「ワンピース」は予想以上の結果が出た。ワンピースに出演した俳優の歌舞伎公演に、いままでとは違う、若いお客さんが来てくださるようになった。
若い人が喜ぶ作品は、従来のお客さんも面白かったら来てくださる。東京に比べると名古屋の演劇は、まだそういうところが薄い。毎月いろんな芝居をやって「演劇っていろんなものがある」と知っていただき、幅広い層に御園座に来ていただくことが一番いいことかなと思う。
――松竹と御園座は2012年、業務提携を結びました。松竹は御園座の大株主でもあり、縁は深いですね。
御園座とは長い間、非常にいい友好関係を結んでいる。名古屋が興行の場所として成立することは、私どものやる商業演劇の中で大きなポイントを占める。いい芝居をして大勢のお客さんに来ていただければ収益は上がり、御園座の経営も安定する。責任を持っていい芝居を提供したい。
――名古屋ならではの公演は考えていますか?
名古屋だけの芝居というのはなかなか難しい。ただ、いい作品をまず名古屋でやり、東京公演を翌年にするとか、「とりあえず御園座に行かなければこの芝居を見られない」というものを作るのはあるかもしれない。
――今年は歌舞伎座開場130年目。今後の歌舞伎界は。
歌舞伎は浮き沈みがある。今は坂田藤十郎さん、白鸚さん、吉右衛門さん、片岡仁左衛門さん……。芸が円熟している。その人たちと同じ舞台に立つことで、こんにちまで続いてきた歌舞伎の古典のエッセンスを若い人たちが引き継いでほしい。
先輩の芸を尊重する中で若い人が伸びてくる、そういう意味で、今は絶頂期かもしれない。歌舞伎のいろんな面白さを感じ取ってもらえる、そんな1、2年になるのでは。5年経ってしまえば、世代交代がなされてしまっているから。
スーパー歌舞伎をはじめ、いろんな俳優さんが古典を大事にするとともに、自分なりの新しい歌舞伎を作っている。それがここ20~30年くらいの歌舞伎の流れ。これがとてもいい形できているので、ずっと続けていくことが歌舞伎にとって大事。そういう意味で、また御園座でできるというのはいろんなチャンスが増えることだと思う。(千葉恵理子)
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あびこ・ただし 1948年生まれ。日本大学大学院芸術学研究科修了後、75年に松竹入社。2006年から演劇本部長(現任)、14年から副社長。11年から御園座の社外取締役も務める。