二塁打を放つ英明の山上慎太朗君=23日午後、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場、奥田泰也撮影
(23日、選抜高校野球 国学院栃木3―2英明)
試合詳細はこちら
動画もニュースも「バーチャル高校野球」
選抜の日程・結果はこちら
「ナイスバッティング!」。英明(香川)二回裏の攻撃、山上慎太朗君(2年)が右翼へ二塁打を放つと、アルプス席で立ち上がって喜ぶ兄弟がいた。山上雄大(ゆうだい)さん(21)と和伸(かずのぶ)さん(20)。2人とも慎太朗君の兄で、甲子園に出たことのある元球児だ。
雄大さんは2014年夏に坂出商(香川)の主将、和伸さんは15年春に英明の捕手として出場した。慎太朗君はいつも兄2人と同じことをやりたがる三男坊。「危ないけん」と言っても、小学1年のころから「できるけん、こっちに投げてくれ」とせがんだ。「とにかく負けず嫌い」と雄大さんは言う。
兄を追って英明への進学を希望した弟に、和伸さんは毎日1時間半ほど自宅の倉庫で付きっきりで打撃の特訓をした。レベルの高い高校の練習についていけるか心配だったからだ。技術だけでなく、スパイクなど野球用具を磨いていないことも叱った。兄たちは今でも打撃の自主練習に付き合い、試合後には映像を一緒に見て反省会をする。「時に叱り、褒めてもくれる大切な存在」と慎太朗君。
兄2人は甲子園で初戦敗退。この日の国学院栃木戦は「兄弟初勝利」を目指した試合だった。直前に打撃が不調になった慎太朗君からLINE(ライン)で相談を受けた和伸さんは試合前、「甲子園は最高の舞台で、緊張する暇もない。体と心は常に熱く、頭は常に冷静に野球をするように」とアドバイスした。「ありがとう、頑張ります」と返信があった。和伸さんは「恥ずかしくて敬語になったんだと思う」と大舞台に臨む弟を思いやった。
慎太朗君は試合で、3度出塁するなど活躍したが、惜敗した。「兄たちから『甲子園での1勝は簡単じゃない。自分一人でやらずに、皆でやらんと勝てへんぞ』と言われていたけれど、その通りだった」。3兄弟の思いは夏へと引き継がれる。(福井万穂、川村貴大)