久次米さんとお気に入りの「ビクターB型」=阿波市市場町尾開
旧式の農業用エンジンに魅せられた人たちがいる。戦前から脱穀や揚水に使われていた、粗悪な燃料でも動くシンプルな発動機。今では扱いやすいディーゼルエンジンにとってかわられたが、「旧式は一つ一つに個性があって楽しい」。おやじ心を直撃する何かを、古びた機械は持っている。
3月上旬、徳島県阿波市の山あいにある空き地に20人ほどのおじさんが現れ、めいめいに小型のエンジンを据え付けた。「プスン、トントントントン……」小気味よい音が響き、排気煙が漂い始めると、取り巻く仲間たちから「おおっ」「よしっ」と声があがった。
県石油発動機愛好会の定例会だ。何か作るでも作業するでもなく、集まってエンジンを回すだけ。こんな集まりを月に1回、もう10年も続けている。
創始者で会長の久次米秀俊さん(67)=阿波市市場町=は自動車整備工場で働き技術を学んだ。「頭の中からエンジンが離れたことはない」という機械好き。50代の時、改造した小型バイクで1/32マイル(約50メートル)の加速を競う競技に熱中し、あるクラスの世界記録を打ち立てたこともある。
旧式エンジンを知ったのは10年ほど前。音や煙をあげて動く様子をテレビで見て触発された。空気の圧縮と燃料の噴射、点火を繰り返す単純な構造だが、昔は工作の精度が悪く、同じ型式でも1台1台にくせがある。弾み車を前後に回して始動するが、機械のくせや気温によって回し方を変えないとうまく動かない。「そこも魅力」という。
人から譲り受けたりネットオークションで競り落としたりして8台を集めた。壊れた部品は自分で溶接して作り、交換用の点火プラグを人づてに取り寄せて動く状態に保っている。
一番のお気に入りは1935(昭和10)年ごろに大阪市の野依商店機械部が製作した「ビクターB型」。ほとんど使われていなかったらしく、内部はきれいなままで、保存状態もよい。「発動機に良いかはわからないが、オイルは車用の高級品を使ってます」と、久次米さんは笑う。
会員の登家一彦さん(51)は、子どものころ実家の農家が三菱製の発動機を使っていたことから、「三菱かつらM1」型がお気に入りだ。倉庫に数十年間眠っていたのを譲り受け、約2カ月間、分解、洗浄、点火コイルの巻き直しといった手間をかけて動く状態にした。「発動機は、構造は簡単でも立派に仕事をする姿が魅力」と話す。
4月1日には午前7時ごろから勝浦町生名の生名ロマン街道で実演会を開く。久次米さんは「若い人や多くの人に魅力を知ってほしい」と話す。問い合わせは登家さん(090・6883・8154)まで。(三上元)