フランス―コロンビアの親善試合を視察するハリルホジッチ前監督(右)と西野朗新監督=2018年3月23日、パリ郊外サンドニ、長島一浩撮影
サッカー日本代表の突然の監督交代をどうみるべきでしょうか。
解任に踏み切った協会の判断は
前回2014年W杯ブラジル大会で日本は、ザッケローニ監督のもと1次リーグ敗退。あの時は自分たちがどういった戦い方ができるか、というサッカーでした。そこで、そのブラジル大会でアルジェリアを決勝トーナメント1回戦に導いたハリルホジッチを起用。相手の良さを消し、勝利に向けて現実主義に徹することにフォーカスした監督選びでした。
それがロシア大会直前の解任。本人も憤り、見ている人も疑問に思う解任かもしれません。しかし、日本サッカー協会のスタッフも、一番近くで常に代表チームを観察しています。自分もかつて日本サッカー協会特任理事をやらせていただいた8年間、監督が決まる瞬間や代わる瞬間をみてきました。そこでのやり取りを見る限り、監督交代の決定などは相当慎重にやっています。今回の決定は、これからの腕の見せどころで、ハリルホジッチがその力を発揮できないと確信したうえでの判断でしょう。
これまでは「相手に手の内を見せず、本大会では伝家の宝刀を抜いて何かやってくれるはず」と監督更迭の決定を遅らせてきました。しかし、あえてこのタイミングで解任したということは、抜こうとした伝家の宝刀が「さびている」、もしくは「切れ味が悪い」とみたからです。
進化する世界、後れを取る日本
ハリルホジッチにとって不運だったのは、14年と今回のW杯では、サッカー界の状況が一気に変わってしまったことです。現代サッカーは試合中の分析もAIの解析技術が進み、トップクラスの対戦ともなると前半だけで、大小さまざまものを合わせて約10万個のデータが出てきます。そこからはじき出した前半の問題点を解決する方法を、液晶画面のタブレットを使って選手に伝えています。
ハリルホジッチが策を講じたとしても、逆にハリルホジッチが施してきた対策を相手が試合中に見抜き、ベンチにフィードバックすることを当たり前にやってくるのです。
3月に対戦したウクライナも、日本がマンツーマンで守ることを基本にしているのを即座に把握して、長谷部と山口の両ボランチがマークする選手がサイドに開き、長谷部と山口をついてこさせ、センターバックの前のスペースが空くような工夫をしてきました。
本大会に出場しないチームですら、これだけの変化を試合中に見せてくる。おそらく本大会で当たる各国も、ウクライナがみせたようなことは当然やってくるでしょう。つまり、世界のサッカーの進化は、ハリルホジッチ自身の進化や日本の進化よりも明らかに早いということです。
西野新監督に戦術的植え付けは困難
新監督には、日本サッカー協会技術委員長だった西野朗氏が就任しました。ガンバ大阪ではACLを制するなどの実績があります。しかし近年、シーズン途中から神戸、そして名古屋で指揮をとった時には目立った実績はなく、確固たる戦術的な植え付けが期待できる状況とは言えません。
また、トップクラスの最新戦術は、日本サッカー協会よりもヨーロッパでプレーする選手の方がよく理解している面があります。であるならば、指揮は監督がとりますが、選手個々が持っている戦術眼や判断を生かしながら、選手たちと戦術の構築を行っていく必要もあるのでは、と時間的余裕のない今は感じます。
ハイレベルなチームの攻守の駆け引きに対応するべく、可変的なシステム変更ができる配置と起用が必要な状況です。そのためにも西野監督には、選手とスタッフ、さらに選手間を調整するバランサーとしての役割に期待したいところです。