国民投票でのテレビや新聞のCM・広告
教えて!憲法 国民投票:6
特集:憲法
国民投票では、国民が賛成か反対かを判断する際、メディアが大きな役割をはたすと考えられている。
国民投票運動は原則として自由で、憲法で言論の自由も保障されている。憲法改正についての報道に制限はない。新聞や雑誌など活字メディアに意見広告を載せるのも自由だ。
ただ、国民投票法は、テレビとラジオで改憲案への賛成・反対を勧誘する有料のCM放送だけは、投票14日前からいっさい禁じた。
電波は有限な国民の財産でチャンネルが限られるうえ、大きな影響力をもつ。とくにテレビは映像と音声で視聴者に強い印象を与える。少なくとも期日前投票が始まって以降は、国民に「冷却期間」が必要という考えからもうけられた規制だ。これには、党派や改憲、護憲の立場を超えて一定の理解があった。
しかし、現状では不十分だという声が残っている。14日前から禁止というのは、逆にいえば、それ以前はだれでも自由にCMを流せるということだ。しかも、「賛成に投票を」とよびかける勧誘ではなく、「私は賛成です」と意見表明するだけの内容なら、14日前以降も規制対象にならない。
15秒や30秒間の映像と音声では、改憲案の利点や問題点、必要なデータを十分に伝えるのはむずかしく、イメージ重視の訴えになりやすい。国民投票運動が展開される60~180日間に、扇情的なメッセージが流され続けたら、国民の判断がゆがめられてしまうのではないか――。そうした懸念の声が市民団体などから出ている。
公平性の問題もある。CM料金はキー局のゴールデンタイムなら1本数百万円とされる。国民投票運動には、通常の選挙運動と違って費用の制限はない。資金力のある側がCMを大量に流せて有利になり、投票行動に影響を与えかねない。
2015年にあった大阪都構想の住民投票では、賛否両陣営が計数億円の広報費を投じ、イメージ先行型のCMを連日放映。「消耗戦だ」と批判があがった。
そのため、有料CMを全面的に禁止すべきだという指摘がある。16年に欧州連合(EU)離脱を問う国民投票を実施した英国では、全面禁止した代わりに、賛否両派の代表団体に無償でCM放送枠を平等に割りあてた。賛成・反対のCMが同じ量となるよう、放送時間や資金を規制すべきだとの意見も根強くある。
一方、憲法や言論法の専門家らからは「CMも表現の一つであり、表現の自由の観点から規制は問題」「言論には言論で対抗すべきだ」などと規制強化に反対する声も出ている。インターネットが発達するなかで、放送だけを規制することへの疑問もある。
日本民間放送連盟は法規制に一貫して反対し、国会などで「自主的判断に任せてほしい」と訴えてきた。ただ、放送界の自主ルールはまだできていない。(石川智也)