「イヤイヤ期」どう言い換える?
何をするのにも嫌がる2歳前後の時期を指す「イヤイヤ期」。呼び方を変えませんか、という4月3日付朝日新聞「声」欄の投稿をきっかけに、同21日付朝刊で別名を募集したところ、20日間で500件近い投稿が届きました。寄せてくれたのは、育児に悩む親や祖父母世代、保育士のみなさんです。新しい呼び方は? それに込めた思いとは?(田渕紫織、中井なつみ)
「イヤイヤ期」別の呼び方が良い? 子の反抗と考えずに
富山県射水市の松崎真祐美さん(26)は、イヤイヤ期の別名について「『ママ(パパ)あのね期』はどうでしょうか」と提案するメールを寄せた。イヤイヤ期真っ最中の長男(2)を子育て中だ。
1歳8カ月の時、長男が初めてスーパーで座り込んで泣き出した。当時、まだほとんど言葉をしゃべっておらず、要求がわからない。「以前、同じような子を見て『行儀が悪い子だな』と思っていましたが、どこにスイッチがあるか、何がきっかけかもつかめない。想像を絶する苦しさでした」。床に寝て、じたばたする息子を見た客に舌打ちされたこともある。ギャーッと泣いて、えびぞりになる息子を無理やり抱きかかえて売り場を見て回った。
隣の富山市で働く自営業の夫は毎晩帰りが遅く、朝から寝かしつけまでワンオペ育児。子どものいる同級生の大半は共働きで、日中に外出しても会えない。母親にも「子どもとずっといられるのは幸せでしょ」と言われ、「1対1で24時間育児する毎日の大変さを、誰にもわかってもらえない」とふさぎこんでいた時期に、イヤイヤ期が始まった。
習い事のベビースイミングで、突然プールに入るのをいやだと言い始め、プールサイドで1時間泣いた時にも困り果てた。隣に座り、太ももを軽くつねったりして「なんで?」と責めるように聞いてしまったのを後悔し、帰りの車中で息子の寝顔を見ながら涙が止まらなかった。
そんななか、息子の本心が垣間見えたことがあった。言葉をしゃべり始めたある日、息子は寝つかずに泣きわめいていた。「どうして寝たくないの?」と聞いてみると、「あのね」と切り出した後、覚えたての単語をつなげ、午前中に作った工作の続きをやりたい、と教えてくれた。机で続きを始めるとすぐ寝入った。「話を聞いてほしかったんだ」と気づいた。
息子の本心はわからないことの方が多く、試行錯誤の日々だ。それでも今回、息子の昼寝中にスマートフォンで記事を読み、当時のはっとした気持ちを思い出して投稿した。
「わけわからん期」提案も
大阪府の谷口正和さん(42)は「一家全員で名称を考えました」。次女(2)がイヤイヤ期真っ盛り。おとなしかった長女(9)に比べ、やんちゃな次女は自己主張が強め。服を着るのをいやがったり、ごはんをいやがったりする姿に困惑していた。
妻は、大変さが素直に出た「わけわからん期」、長女は、年の離れた妹の行動を楽しんでいるところもあり、「はちゃめちゃ期」。谷口さんは、次女の行動をポジティブに捉えたいと「わくわく期」と名付けた。「家族でも違って面白い。イヤイヤ期の話題を共有できることで悩みや不安が軽くなると思う」
子育て経験のある祖父母世代からも多くの声が寄せられた。
2歳半の孫がいる都内の60代の女性は「のびのび期」を提案。自身の子育て中と比べ、子どもへの周囲の視線が冷たいことが気になる。「子どもはのびやかに育ってほしい」との思いから名付けた。
孫もだっこひもをいやがって泣いたり、保育園の帰りに寄り道をせがんだり、自己主張が強くなっている。母親である娘には「おとなしいのが正解じゃない」「意思を表せるのはすてきなことだよ」と繰り返し伝えている。
妊娠中、「イヤイヤ期」という言葉で育児への不安が膨らんだという意見もあった。
東京都内の妊娠9カ月の30代女性は「イヤイヤ期を想像すると、楽しさより、怖さが上回る」。明るく前向きにと、成長する植物の芽をイメージ。「ふたばのシーズン」と名付けた。
一方で、イヤイヤ期を言い換えることへの違和感も17件寄せられた。
大阪府堺市で3児を子育て中の公務員の女性(37)は「たしかにイヤイヤ期にはネガティブなイメージがあります。だって大変ですもん。仕方ないと思う」と打ち明けた。第2子は3歳になったばかり。帰宅、手洗い、おむつがえ、就寝。何をしようと言ってもイヤを連発し、泣く。「言葉が通じない、でも愛する子どもの相手をするのは本当に根気も時間もいり、家の中では孤独なたたかい」だという。
女性は「親も子どもも『イヤイヤ』って思う時期。このままでいいんじゃないでしょうか」と結論。「その上で、親にイヤイヤ期を乗り越える知識と自信を与えてくれるアナウンスがあればいいな、って思います」と結んだ。
東京都内の保育士(47)も「呼び方を変える必要はない」と投稿。昨年度まで2歳児クラスの担任をしていた。「苦しい時期ですが、『イヤイヤ期だからねー』とわかりやすい言葉で保護者と共感しあい、笑いあえる環境こそが大切だと思う」と話した。
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朝日新聞4月3日付「声」欄(…