早くも来年の新入生向けのランドセル商戦が始まっています。子どもたちが背負うランドセルとその中身の重さや体への負担について、3月にフォーラム面で取り上げたところ、多くの反響が寄せられました。読者のみなさんからの意見や体験とともに、重さの原因や解決策について考えます。
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何が大切か 考え選択を
みなさんから寄せられた反響の一部を紹介します。
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●「私は岐阜市でカバン店を営んでいます。A4判ぴったりのランドセルより数百グラム重くなる『A4フラットファイル対応』はあえて取り扱っていません。学校が連絡用にA4ファイルを使う場合も、手提げ袋を一つ持つか、ファイルの表紙を5ミリ切れば、一段小さくて軽いランドセルを選べます。保護者の方にはお子さんにとって、何が本当に大切なのかを考えて選んで頂きたいです」(岐阜市・早水久雄さん 65歳)
●「ランドセルは重いし、学年が上がると使わなくなることが多いと思っていましたが、次男は6年間使いました。ゲリラ豪雨の中、傘を持っておらず、ずぶぬれで帰宅したこともありましたが、ランドセルの中は無事。『ランドセルってすごい』と思いました。軽量のリュックサックでは無理があるように思います」(大阪府・50代女性)
●「小学生の放課後サポーターとして学習支援をしています。ランドセルだけでなく、教科書の重さも気になります。発色のいいカラー刷りのため、白黒印刷の昔に比べ非常に重たくなっています。あれほど美しくなければならないのかと疑問です。挿絵が白黒である方が、子どもの想像力もかき立てられると思います」(大阪府・日下千代子さん 69歳)
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登校の姿 「同調圧力」の象徴
埼玉県に住む女性(44)は、現在小学4年生の長男が入学して以来、ランドセルの重さに疑問を持ってきました。
4月下旬の大雨の朝のこと。長男はランドセルを背負い、絵の具と習字セットも持っていかなくてはなりませんでした。これに加えて傘をさすのは無理だと思い、風邪気味だったこともあり、車で送りました。
「こんな日でも、ほとんどの子どもたちが指示通りに大量の荷物を持って集団登校をしている姿に疑問を持ちました。ランドセルこそが、小学校における『同調圧力』の象徴に思えてなりません」
長男が通う学校では、筆やパレットは学校で洗えないため、毎回、ケースごと自宅に持ち帰るそうです。中身だけ持ち帰る、あるいは筆やパレットを学校の備品にすれば道具を持ち帰る必要もなく、親の金銭負担も少なくて済むのではと感じます。
「教育関係者や保護者の中には、昔と変わらぬやり方で子どもを鍛えることを『是』とするマインドが、まだまだあります。勉強や遊びのために使うはずの体力を、登下校の重い荷物の運搬により、そいではならないと思います」
チリに住む亀野誠二さん(50)の小学4年生の長女は、日本人学校に入学する際、親と相談して登山用リュックを使うことにしたそうです。
リュックの重さは570グラムと、一般のランドセルに比べ1キロほど軽量。ウエストベルトで腰と肩に荷重を分散することができ、収容力も20リットルとランドセルの倍以上。A4ファイルだけでなく、弁当や水筒も余裕で入るそうです。背中はメッシュ素材で通気性があり、夏場でも蒸れを防ぐなど、良いことずくめでした。
しかし学校に入って半年ほどすると、クラスメートのほとんどがランドセルを使っているせいか「ランドセルを買って」と言うようになりました。友達と一緒じゃないと嫌という一時的な理由なのかを見極めたいと、亀野さんは「2年生になってもランドセルが欲しいなら考える」と伝えました。
結局、長女は「かわいいからランドセルを使いたい」と主張し、2年生になるとランドセルを買ってもらったそうです。一方、この春入学した長男は、リュックで登校しています。現地の子どもたちは、キャリーカートで登校している例が多いと言います。
「祖父母が買ってくれるから、みんなが使っているからと思考停止してランドセルを使うのではなく、本人が納得して選んで欲しい。それならば、その選択を尊重します」
教科書の紙 軽減は限界
教科書をこれ以上、軽くすることは難しいのでしょうか。業界最大手の東京書籍(東京都)を訪ねました。
教科書の大きさやページ数は、親世代と子ども世代では大きく異なります。約40年前に使われていた小学3年生の国語、算数、理科、社会の同社教科書の重さは計約990グラム。それが現行版では計約2150グラムにもなります。
教科書のサイズやカラーページの分量などはかつて、国の教科書検定の細則で決められていましたが、細則は1989年に廃止に。その後も教科書協会が業界ルールの「目安」を設けていましたが、公正取引委員会から排除勧告がなされ、2002年発行の教科書からは、大きさ、ページ数、カラーの分量などが完全に自由になり、「より大きく、見やすく」の流れが一気に加速し、紙質も変わったといいます。
一方、「教科書が重すぎる」という声を教科書会社も意識し、紙を軽くするなどの工夫をしているそうです。ただ、1年間、毎日のように使う教科書の紙は、破れにくく、見やすく、鉛筆で書いたり消したりしやすいといった品質が求められます。「技術的には、教科書の紙を軽くする工夫は限界が来ています」と、高垣浩史編集総轄部長は話します。
大正大学の白土健教授(経営学)は今年4月、首都圏の小学校に通う58人を対象に、家庭で2週間にわたりランドセルの重さとサブバックの重さを量ってもらいました。回答には時間割表やランドセルの中身の写真の添付も依頼しました。
調査前は、学年が上がるに従い重くなると予想していましたが、必ずしもそうではありませんでした。補助教材やプリントファイルなど、教科書以外の要素も大きかったのです。白土教授は「熱心な先生の方がプリントが増えることも考えられ、一概に重さを減らせとは言えない。必要のない教材は学校に置いておく『置き勉』を認めるという解決策が現実的でしょう」と話します。
調査に関心を持った文部科学省教科書課の職員の求めに応じ、結果は全て報告しました。職員は「一つの調査結果としてお聞きしており、参考にできれば」と話します。
市民の声 対策を促す例も
市民の声が「政治」に届き、負担軽減につながった事例があります。
千葉県流山市の小中学校長会は昨秋、ランドセルや荷物の負担軽減対策を進めるよう、各学校に通知を出しました。絵の具や習字セットなどの重い道具は分散して持ち帰る、家庭学習に必要ない副教材は学校に置く、などの配慮を求めています。
きっかけは、小学2年生と4年生の娘の母親でもある近藤美保市議(43)が、昨年9月の議会一般質問で、小中学生の荷物の重量化への対策を求めたことでした。
「ランドセルが重すぎないか」との相談が市民から寄せられ、長女の荷物の重さを量ってみると、ランドセルだけで5・6キロ、水筒や上履きなども加えると計9・6キロにも上りました。長女は以前から「重い、重い」と訴えていたのですが、甘えだろうと思っていました。
市教育委員会に尋ねると「各学校で重くならないように工夫しているはずだ」との回答だったそうです。実態は違うのではと思い、同僚の森亮二議員と共にインターネット上でアンケートを実施しました。
その結果、回答した小学生の保護者23人の約8割が「重い」と感じており、学校やクラスにより対応が異なる実態が浮かび上がりました。
「通知をきっかけに、娘の学校でも楽器を置いていけるようになりましたが、6月議会では『置き勉』を積極的に認めるよう、さらに求めていきます。ランドセルの重さの上限基準に関する意見書も、国に出していきたい」と近藤市議は話します。
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来春、小学校に入学予定の娘(5)は、「ランドセルを買うなら水色がいいなぁ」などと話しています。ただ保育園の1年先輩の子どもたちは必ずしもランドセルを背負っておらず、「絶対にランドセル」というイメージはないようです。
重さや機能性ではリュックの方が優れています。でも私は小学1年生で転校した際、前の学校で使っていたリュックで登校したのをからかわれ、泣いてしまった経験があります。同調圧力に流されてはいけないと思いつつ、親としては悩みます。
同じく来春、小学生になる娘を持つ同僚は、教科書を買って自宅に置き、持ち帰りしなくてもすむようにすると言っています。教科書は各都道府県に販売店があり(
http://www.text-kyoukyuu.or.jp/otoiawase.html
)、1年生の入学時の国語、算数、生活の教科書の平均価格は計約1600円です。
子どもの努力だけでは、重さを減らすことはできません。保護者はおかしいと思ったら声をあげる、学校は負担にならない方法を採る、国はデータをもとに指針を作る――。各自ができることを通じて、解決策を見つけていければと思います。(岡崎明子)
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