帰国した小林可夢偉(左)と中嶋一貴
フランスで行われた自動車の耐久レース、ルマン24時間で初優勝を飾ったトヨタの中嶋一貴と2位になった小林可夢偉の日本人ドライバーが21日、トヨタの東京本社で優勝報告を行い、トヨタの社員から喝采を浴びた。
報告会に先立って行われた記者会見では小林がチームの秘密を明かした。
トヨタは今回、2台態勢で臨んだ。7号車は小林、ホセマリア・ロペス(アルゼンチン)、マイク・コンウェイ(英)の3ドライバーが交代でハンドルを握った。8号車は中嶋、フェルナンド・アロンソ(スペイン)、セバスチャン・ブエミ(スイス)という組み合わせだった。
トヨタチームの狙いは悲願の初優勝と1、2位の上位独占だった。そこでチームが選んだ戦術は2台を競わせることだった。
「去年と違ったのは、8号車の情報を一切教えてもらえなかったことですね」と小林。
無線を通じて、ピットからドライバーにさまざまな情報が伝えられる。現在の順位、ライバルとの差、タイヤの消耗度、燃料の残量などなど。今回は7号車と8号車に互いの情報を知らせないことで、両車のライバル意識をかき立てた。
トヨタのマシン「TS050ハイブリッド」の性能が群を抜いていることは世界耐久選手権の第1戦で明らかだった。周辺からは「だまっていてもトヨタは勝てる」と言われていた。チームはそんな楽観ムードが内部に広がることを恐れた。その対抗策が2台を競わせることだった。
予選でトップに立ったのは8号車。7号車は2位に甘んじた。しかし、レースの序盤は7号車がリードした。スタートから3時間経過した時点では、7号車が8号車を5秒ほど離していた。その直後、アロンソに代わったところで8号車が7号車をかわして先頭に躍り出た。
折り返しの12時間を過ぎた時点では7号車が首位。8号車は速度オーバーのペナルティーを受け、一時は7号車に2分以上の差をつけられた。
8号車の中嶋は「7号車がいたから集中力が切れなかった。お互いガチンコで戦った効果はあったと思います」。チーム内競争が優勝を呼び込んだと認める。
中嶋は世界耐久選手権がスタートした2012年からルマンに挑戦。7度目で頂点に立った。悲願を達成し、「肩の荷が下りた。シリーズのチャンピオン(総合優勝)を目指し、残りのレースを楽しみたい」と話した。(有吉正徳)