「ゲッベルスと私」
「何も知らなかった。私に罪はない」。ナチス宣伝相ゲッベルスの秘書が、103歳にして沈黙を破り独白する。オーストリアのドキュメンタリー映画「ゲッベルスと私」が公開される。強大な権力に対し、自分を殺し従順に生きるか、声を上げる勇気を持てるか。今日的テーマを持った作品だ。
ブルンヒルデ・ポムゼルは敗戦までの3年間、秘書を務めた。紳士的な上司の下で指示された仕事を忠実にこなし、ユダヤ人女性の親友の窮状に接しつつもホロコーストについては何も知らなかった、と語る。
「知ろうとせず、目をそむけた。しっかりした知性の持ち主の彼女がそうしたのは、ある種の自己防衛。戦後、『何も知らなかった』と言い続けたのも自己防衛だろう」と、共同監督の1人、フロリアン・バイゲンザマーは語る。
反ナチ運動「白バラ」のショル兄妹の処刑について「残酷だった」とポムゼルは言いつつ、「黙っていたら彼らは生きていたのに」。そして金庫にしまった裁判記録に興味があったが、「忠誠心から見なかった」と誇る。
映像は黒バックにモノクロ。強い照明でポムゼルの深いしわを強調した。「淡々とした彼女の言葉が語らないものを、表情が語る。歴史や歳月の重みがしわに映し出される」と共同監督のクリスティアン・クレーネス。彼女はどこまで真実を語っているのか? それは本心か? 表情を見つめているうちに「しわの迷宮」にはまり込む。
母国を含む欧州各国で排外主義とポピュリズムが広がる。それに対する危機感が映画を作った動機だ。
「ナチスのような独裁は今はないが、油断して、声を上げるべき時を逸してはならない」とクレーネス。「ショル兄妹が抵抗した時はもう遅かった。自由と民主主義を脅かすものに、常に敏感であるべきだ。それが歴史の教訓だ」とバイゲンザマー。
ポムゼルは昨年1月、106歳で亡くなった。生涯独身だったという。
大阪のシネ・リーブル梅田で30日から。京都シネマとシネ・リーブル神戸でも8月に上映予定。(小原篤)