RIZAPグループの株主総会で配られたお土産=読者提供
6月下旬は企業の株主総会のピーク。一定の株を持っていれば個人でも株主として総会に出席することができる。なかには、配られるお土産などを目当てに総会を渡り歩く「株主総会マニア」と呼ばれる人たちもいる。これまでに延べ2千社近くの総会に参加したという都内の50代の女性に話を聞くことができた。
「6月半ばから土日も含めてほぼ毎日どこかの総会に出ています」。専業主婦の女性にとって最も忙しい季節がやってきた。今年はホンダやRIZAPグループなどの有名企業のほかに、あまり知名度が高くない企業の株主総会にも足を運んでいる。参加した株主総会のお土産などの情報を、連日ブログにアップしている。
日本マクドナルドホールディングスや日本トイザらスといった身近な企業の株を買い始めたのは2000年ごろ。企業経営に関心があったわけではなく、株主優待が目当てだった。自宅に毎年届くようになった招集通知を見て、十数年前から軽い気持ちで株主総会に出るようになった。
総会の会場には企業の商品が展示され、目の前にはテレビで見る著名な社長がいた。総会前後には飲食が用意され、ときにはお土産ももらえた。有名人が講演したり、歌手のライブが行われたりしたことも。まさに「イベント」だと思った。個人株主どうしの交友も広がり、はまっていった。
会社員だったころからの貯金を元手に、常時200社以上の株を持ち、年間200弱の株主総会を渡り歩く。株でもうけることよりも、楽しむことに重きを置く。
今年は1日最大3社だが、数年前は最大10社ほど回っていた。その場合は、大手町や品川のように総会の会場が集中している場所を中心に行き先を選ぶ。電車での移動時間だけでなく、会場に最も近い駅の出口まで、綿密な計画を立てて臨む。地下鉄やJRの1日乗車券と、お土産を詰め込む大きなリュックは必須だ。
株主総会マニアの間では「総会は9時から始まる」と言われる。総会は午前10時に始まることが多いが、9時の受け付け開始からお土産が配られるからだ。記念品やお菓子、その企業の製品などさまざまなお土産を受け取り、総会に出ないまま次の総会に向かうことも。
だがここ数年は、お土産を廃止する企業が増えてきたように感じている。女性は「モノ言う株主や機関投資家を中心に、企業のお金の使い方への目線が厳しくなってきたのではないでしょうか」とみる。
全国株懇連合会の調査では、株主総会出席者へのお土産がある企業は17年度は71・1%で、2年前から6・6ポイント減っている。三菱UFJ信託銀行が6月総会の招集通知を対象に調べたところ、お土産を配布しないことを通知した企業が18年(14日時点)は全体の約16%に達し、14年の約3%から大きく増えた。
一方で、個人株主を大切にする企業も少しずつ増えてきたとも感じる。十数年前は、質問が一つも出ず、「さくら」と思われる出席者が目立つ「シャンシャン総会」が多かった。だが近年は、動画を交えて事業の報告をしたり、総会後に事業説明会を別途開いたりと、株主に丁寧に説明しようとする企業が増えてきたという。女性は、社長の受け答えが丁寧かどうかなども、ふだんの株の売買の参考にしている。
日本取引所グループによると上場企業数は約3600社。「まだまだありますね。すべての企業の総会に行くことが私のひそかな野望です」と女性は話す。
東京や名古屋など全国四つの証券取引所は26日、個人株主の延べ人数が17年度に初めて5千万人を超えたと発表した。(篠健一郎)