母校・野洲高校を訪れた乾貴士(右)。総監督の山本佳司さんと肩を組んで記念撮影に応じた=2016年6月、滋賀県野洲市行畑2丁目、山本さん提供
「ジョーカー」から真の「エース」へ――。サッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会で日本代表は29日(日本時間)、ポーランドに敗れたが、かろうじて1次リーグを突破。セネガル戦でゴールを決め、一躍注目を集めた滋賀県近江八幡市出身のMF乾(いぬい)貴士(たかし)(30)は決勝トーナメントに挑む。その乾に母校の恩師や後輩はエールを送る。
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振り抜いた右足から放たれたシュートが、向かって右手のセネガルゴールに突き刺さる。前半34分、1点を追う日本代表を勢いづける値千金の同点弾だった。
「ナイスゴール」
テレビ観戦していた野洲(やす)高校(滋賀県野洲市)サッカー部の山本佳司(けいじ)総監督(54)は、乾にLINE(ライン)でメッセージを送った。
「ありがとうございます」と乾から返事が届くと、山本総監督は「こちらこそありがとう。シュート完璧」と返した。
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「貴士が世界で活躍する選手であることの証拠」と、山本総監督はまな弟子の活躍に目を細める。乾を一躍有名にしたのが、2006年の全国高校サッカー選手権大会だ。決勝で強豪の鹿児島実業を破り、初優勝。延長後半に2年生だった乾らの個人技とパスワークで勝ち越し点を挙げた。以降、野洲高サッカー部が掲げた「セクシーフットボール」は、代名詞になった。
山本総監督は部員に「世界で活躍するために何が必要か考えて努力しろ」と教えてきた。「貴士は野洲の理念を体現した存在。W杯で得点したことに、敬意を表したい」という。
ドリブラーとして知られ、試合の流れを変えるジョーカーとしての期待を担ってきた乾。そのために誰よりも練習に励んできた。2年生の秋のこと。台風の接近で雷雨となり、授業は中止に。だが乾はただ一人、水浸しのグラウンドでずぶ濡(ぬ)れになってドリブルを練習し、周囲を驚かせた。
乾は野洲高校在籍時からトレーナーとしてケアを受けていた樫野(かしの)哲也さん(42)と、半年に1回のペースで会っている。何げない会話が多いが、「いつも野洲高校を気に掛けている」と話す。
乾は11年から海外でプレー。現在はスペイン1部リーグのベティスに所属しているが、今も試合がない時期には、毎年のように野洲高校を訪れる。後輩とゲーム練習で汗を流し、グラウンドでの走り込みやリフティングに打ち込む。
「(アルゼンチン代表の)メッシはホンマやばい。もっと練習せなアカン」
こんな乾に後輩も刺激を受けている。一緒に練習した片岡海斗主将(3年)は「世界で活躍する乾選手が、誰よりも努力する選手だったと聞いて、頑張ろうと思った」。山添章雅選手(同)は、「夢に向かって練習しなければならない」という乾の言葉を覚えている。「野洲でやってきたことが世界で通用すると自信を持てた」と語り、先輩のさらなる飛躍に期待を寄せた。(比嘉展玖(ひらく))