10月のブラジル大統領選を前に、人気サッカーチームの私設応援団が、「軍事独裁政権を礼賛する候補は支持できない」と異例の意見表明を始めている。かつて創立メンバーが政府などから拷問を受けたとし、「応援団の歴史を振り返ってほしい」と会員に呼びかけている。
ブラジル大統領選、極右候補に勢い 暴漢に刺され入院中
大統領選の世論調査では、暴漢に襲われ入院中の、元軍人で極右のジャイル・ボルソナーロ下院議員(63)が支持率28%で独走している。「軍事政権は正しかった」と過激な発言を続け、ブラジル社会には警戒感が広がっている。
意見表明をしたのは、コリンチャンスのサポータークラブ「ガビオインス・ダ・フィエウ」と、サントスの「トルシーダ・ジョベン・ド・サントス」。いずれも軍事独裁政権時代の1969年に創立された。
ガビオインスはブラジル最大の私設応援団とされ、会員数は11万人を超える。19日発表の声明では、表現の自由が制限されていた創立当時、メンバーが政府関係者やクラブ会長側から拷問や圧力を受けたと説明。大統領を国民が選べるよう訴えるプラカードを応援席に掲げたことを挙げ、「表現の自由や民主主義を取り戻すために戦ったことは、49年の歴史に刻まれている」と指摘。「軍事独裁を好み、拷問を賛美する候補を支持することは応援団の考えに合致しない」と強調した。会員には、「クラブの歴史を振り返ってほしい」と呼びかけた。
トルシーダも「この国の問題解決手段としての軍事独裁に反対する」と発表。特定候補の支持を依頼するものではないとしながらも、会員に対し、「ボルソナーロ氏の考えは、トルシーダの歴史や考えと一致しない」と断言した。
ブラジルの大手ニュースサイト「UOL」は、「応援団が支持表明をするのは議員選ではあったことだが、知事や大統領選では珍しい」と報じた。
コリンチャンスやサントスは、貧困層のファンが多いとされる。ボルソナーロ氏が、貧困層について「怠け者だ」と述べたり、人種差別発言をしたりしたことも影響したとみられる。(サンパウロ=岡田玄)