性的少数者への差別や襲撃が続いてきたイスラム教国のパキスタンで、心と体の性が一致しない「トランスジェンダー」の権利を守る機運が高まっている。第3の性として国が認め、選挙に挑む若者も登場した。(イスラマバード=乗京真知)
「苦しむ隣人の声を聞いてください」。7月末のパキスタン総選挙。気温50度近い東部オカラでトランスジェンダーの人権活動家ナヤブ・アリさん(25)が立候補した。思春期に隠れて化粧し、父に虐待され、13歳で勘当された故郷を、下院選候補として駆けた。踊り子時代にためた資金で運動員10人を雇った。
立候補したトランスジェンダーはアリさんを含め5人。これまでは男女どちらかの性を選ばなければならなかったが、5月に成立したトランスジェンダー保護法で「第3の性」として立候補できると明記された。
アリさんらが負けを承知で立候補したのは、参政権を行使した実績を作り、少数者の訴えを全国に届けるためだ。同法は教育や福祉、雇用の機会平等も掲げるが、声を上げなければ偏見が運用を妨げかねない。
アリさんの友人マルビア・マリクさん(21)は、東部ラホールの地元テレビ「コヘノール」でトランスジェンダーと公表、キャスターを務める。放送前は1時間メイクに集中。伸びのある発声は局随一だ。
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