漫画などの海賊版サイト対策を議論している政府の「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」は15日、特定サイトへの接続を遮断するサイトブロッキング(接続遮断)の法制化について、予定していた「中間まとめ」をとりまとめられず、会議を無期限延期とした。遮断が対策の「最後の手段」なのかが焦点となる中、米国の司法手続きを使って海賊版サイトの運営者を特定できたとの意見書が提出され、法制化の根拠に疑問が突きつけられている。
冒頭、異例のあいさつ 海賊版サイト対策で深まる対立
遮断には、すべてのネット利用者がどのサイトを見ようとしているか確認する必要があるため、憲法が保障する「通信の秘密」を侵害するおそれがあることが問題視されてきた。検討会議では6月から、賛成派と反対派の溝が埋まらぬまま議論を続けてきた。
事務局は両論併記の中間まとめ案を15日の会議に提示したが、遮断に反対している森亮二委員(弁護士)は、政府が会議で議論したことを「ガス抜き」にして法制化を強行するのを警戒し、両論併記にも反発。終了予定時間を1時間半すぎても決着がつかなかった。政府は来年の通常国会に遮断の法制化を盛り込んだ法案を提出することを目指して検討会議を設置したが、意見をまとめられない異例の事態となった。
会議終了後、共同座長の一人、中村伊知哉・慶応大教授は「法制化するかを決めるのはこの会議の外だが、まとまらなかったということも強いメッセージではある。議論してきた内容を知ってもらう方法を考えたい」と話した。今後、合意できなかったと明記した形で、座長の立場として議論の経緯がわかる文書をまとめるなどし、ネット上などでの公開も検討する。(上田真由美)
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この日の会議に提出された意見書によると、山口貴士弁護士は、今年6月12日、海賊版サイト「漫画村」で著作権を侵害された漫画家の代理人として、米国で損害賠償請求訴訟を提訴。漫画村の配信ネットワーク企業「クラウドフレア」に資料の提出を求める召喚令状を送った。同月29日に、「クラウドフレア」から資料が届き、サーバー契約者の氏名(ローマ字)、住所、メールアドレス、携帯電話番号などが特定できた。
山口弁護士は意見書で「訴訟提起から情報開示まで17日間であり、負担もさしたる金額ではない。サイトブロッキングを正当化する緊急避難の要件は満たされていないと考える」としている。
検討会議では、これまで出版社首脳らが「海賊版対策はサイトブロッキング(接続遮断)以外にない」「海賊版サイトの運営管理者の特定は困難」などと訴えていた。しかし、山口弁護士の訴訟例が明らかになると、「現状でも対処が可能ではないか」という意見が専門家から出ていた。
政府は4月に、漫画村などの海賊版対策として接続遮断を盛り込んだ緊急対策を打ち出し、検討会議を通じて法制化に道筋をつけることをめざした。だが、専門家らの反論を受けて最後まで紛糾。接続遮断の合意はえられなかった。(川本裕司)