イノシシ2頭が北九州市門司区の砂防施設に転落して出られなくなり、そのうちの1頭が26日、2週間ぶりに山にかえった。救出を求める声に押された同市や福岡県の職員が苦労して助け出したが、畑などを荒らすイノシシは厄介者。「野に放たないで」という住民もおり、行政は悩ましい立場に置かれている。
イノシシ2頭、砂防堤の底うろうろ 壁登れず脱出不能に
窮地のイノシシ 脱出への誘導作戦の結果は…
26日の昼ごろ。高さ約6メートルの壁などに囲まれた砂防施設の中に、金属製のケージを使ったわなが置かれた。エサを目当てに中に入ったら扉を下ろし、閉じ込める仕組みだ。イノシシは周囲をうろついて警戒心を見せながらも時折、ケージの中に入ってエサに口をつけた。
しばらくして2頭がそろって中に。「今だ」。離れた所で様子をうかがっていた職員が扉を下ろすひもを引いたが、長すぎてなかなか扉が下りない。1頭に逃げられた。ロープでケージを引き上げて扉を開くと、イノシシは山すそを一目散に駆け上がっていった。27日も残る1頭を同じわなで捕らえるという。
2頭の転落に近くの住民が気づいたのは12日朝。住民から相談を受けた北九州市には、朝日新聞が19日にこの問題を報じた後、全国から救出を求める電話やメールが相次いだという。施設の管理責任を持つ県と市が対応を検討。「施設が損傷する恐れがある」と逃がすことにした。
24日には自力で出られるようにと、木のパネルや鉄パイプなどを使ったスロープを設けたが登るそぶりも見せない。翌日は餌付けして、徐々にエサでスロープに誘導しようとしたが、これも失敗。26日にようやく1頭の救出に成功した。
ただ、イノシシは畑や庭を荒らしたり、人を襲ったりする害獣でもある。2017年度に門司区に寄せられたイノシシ被害の相談件数は223件に上る。畑を荒らされたことがあるという現場近くの男性(78)は「捕まえても放たないでほしかった」と話した。(木下広大、吉田啓)