イスラエルと米国に対する抗議デモが続く中東パレスチナ自治区のガザ地区で、イスラエル軍に射殺された女性看護師の母親が娘の志を引き継ぎ、救護活動ボランティアを続けている。デモが行われる毎週金曜日、娘の遺品のベストを着て、デモで負傷した人々の介抱に奔走する。
「娘の武器は白衣だけ」21歳の犠牲、広がる波紋 ガザ
25日午後、イスラエルとの境界に近いガザ地区南部ハンユニス郊外。サブリーン・ナジャルさん(41)は、抗議デモに対してイスラエル軍がまいた催涙ガスで苦しむ少年に、酸素マスクをつけていた。
ナジャルさんが救護ボランティアを始めたのは、医療救援団体のボランティア看護師だった娘ラザン・ナジャルさん(当時21)が昨年6月1日、イスラエル兵に射殺されたことがきっかけだ。当時、ラザンさんは負傷したデモ参加者の救助中だったという。この事件には、パレスチナだけでなく国際社会からも「過剰防衛だ」と、イスラエル軍を非難する声が起きた。
イスラエル軍は「意図的に狙った銃撃ではない」と釈明に追われた。しかし、その後もデモ現場では、医療従事者を含む多くの人々がイスラエル軍の銃撃などで死傷している。
ナジャルさんは「ラザンに代わり、私が心を込めて手当てしたい」と考え、遺品となった救護活動用のベストをまとい、ラザンさんの身分証明書を身につけてデモ現場に通っている。自身は看護師の資格がないため、現場では、医師や看護師らの補助作業を担う。
これまでに、パレスチナ支援団体などの招きに応じ、ドイツやフランスなど30カ国以上で講演し、ラザンさんの活動を伝えてきた。「会場では白衣を着たラザンの写真を掲げる人が多かった。人の命を救ってきたラザンは私の誇りです」と言う。
ガザ地区では昨年3月以降、イスラエルの建国で故郷を奪われたパレスチナ難民の帰還や米国の在イスラエル大使館のエルサレム移転に抗議するデモが、毎週金曜日を中心に続く。ガザ地区の保健省によると、イスラエル軍の銃撃などで250人超が死亡し、2万6千人以上が負傷した。このうち医療従事者の被害は、死者がラザンさんを含む3人、負傷者も400人超に上っているという。(ハンユニス=渡辺丘)