「がん患者はかわいそう」「不幸」「暗い」――。一部に残るそんな偏見を変えようと、闘病経験者のいきいきした表情をポスターにするなどの活動を続ける有志のプロジェクトがある。肺腺がんを治療中の広告会社員が仲間と始めた。30日には「がんサバイバーの祭典」を掲げ、東京都内で無料の催しを開く。
プロジェクトは「LAVENDER(ラベンダー) RING(リング)」。発起人の電通社員、御園生泰明(みそのうやすあき)さん(41)は2015年10月に肺腺がんと診断された。「妻と6歳の息子、2歳の娘の顔が浮かびました。自分はすぐ死ぬのかと落ち込んだが、違いました」
上司の月村寛之さん(51)に「パフォーマンスは落ちるかもしれないですが、この仕事が好きだから働き続けたい」と相談すると、通院と両立できるように仕事を調整してくれた。また御園生さんの写真と「FIGHT TOGETHER(共に闘おう)」という言葉を印刷したステッカーを作り、パソコンに貼ったり周りに渡したりして、応援する雰囲気を社内で自然に広めてくれた。
御園生さんは、上司・同僚や環境に恵まれた自分と異なり、がん患者の約3分の1が告知を受けた後に離職し、その背景にがんへの偏見もあると知った。「広告屋のノウハウを使い、何か企画して世の中を変えたい。完治が難しくても、命ある限り自分なりの使命を果たそう」と決意。賛同した月村さんや仲間と、がんのイメージを変える活動を始めた。
がん経験者にプロがメイクをし、いきいきとした表情の写真を撮り、オリジナルのポスターを作って展示する。そんな取り組みを17年夏、がん関連のフォーラムで企画した。参加者だけでなく家族や友人の表情も明るくなった。ボランティアで参加したスタッフたちもやりがいを感じ、その後も折に触れて開いてきた。
昨年2月4日、がん患者やその周りの人が楽しみながらつながる「LAVENDER RING DAY 2018」を開いた。30日の催しはその2回目だ。これまでに作った約150人分のポスターの展示会やメイク講座を開く。「患者の抱える課題を解決する」というテーマの意見交換や表彰、人工肛門(こうもん)を体験したアナウンサー中井美穂さんと漫画家の内田春菊さんの対談、子どもが参加する「未来のまちづくり」のワークショップなども予定している。会場は「がん在宅緩和ケア支援センター」も入る東京都港区の複合施設「ゆかしの杜(もり)」。昨秋に改修が終わった歴史的建造物のPRも兼ねて区が共催する。
御園生さんは今、治験薬の副作用で視力に問題を抱えるが、仕事もプロジェクトの活動も続けている。「楽しめる企画ばかりなので、がんと関わりがない人も気軽に来てほしい。社会の仕組みや風土を変えていく具体的なアクションを一緒に考えましょう」と話す。問い合わせはメールで事務局(lavenderringday@gmail.com)へ。(上野創)