朝井リョウさん=2019年3月8日、東京都中央区、横関一浩撮影 [PR] 朝井リョウさんの連載小説「スター」が始まりました。新聞連載について、作品のテーマについて、朝井さんに聞きました。 小説「スター」はこちら ――新聞小説はこれが初めてです。 「新聞小説には思い入れがありました。小学校の社会の授業で、気になった新聞記事を切り抜いて持ってくるという課題があったのですが、私は新聞小説や小説の広告を切り抜いていました。先生も『事件やニュースの記事ですよ』と言いつつあきらめていたほど……」 「小6の1年間は、学級新聞を独自に作っていました。新聞小説ごっこをしたくて。レイアウトを自分で全部決めて、新聞小説の枠を一番大きくしていました。あとの記事はおざなりで(笑)。週1で作って、配っていました。新聞に載っている小説が一番えらいという感覚がありました」 「それから17年が過ぎて、同世代で新聞小説を読んでいる人はどれぐらいいるのだろうと考えたり、ウェブメディアに掲載されたインタビューの反響の大きさを知ったりすると、新聞とウェブ、どちらに発表する方がより読まれるのかなと思う。果たして本当に新聞小説はえらいのか、と」 「常日頃、自分がユーチューブなどの動画を多く見るようになったことや、小説の世界も出版社が行う新人賞からのデビューだけなく、ウェブ発で活躍される方が増えてきたことで、質とは何か、価値とは何か、と考えるようになりました」 「直木賞を受賞したら、肩書が急に『直木賞作家』になりました。『何かが担保されているよね感』が怖いときがあります。表現は価値や質が揺らぐもの。何人かの選考委員が良いと言ってくださって、直木賞をいただいた次の日に、アマゾンのレビューでガンガン星一つが付く。新人賞を受けたあと、2冊目以降、何の選考もなく値段がついて流通することにもずっと疑いのまなざしを持っていました」 ――今作は、大学の映画サークルで出会った2人の青年の視点で描かれます。幼い頃から祖父の勧めで名画座に通い、名作に親しんできた尚吾(しょうご)。一方、映画館のない島で育った紘(こう)は、スマホで海や山の風景を「かっこよく」撮るのが好き。映像を題材にしたのはどういう思いからでしょうか。 「ユーチューブを見る時間が本当に長くなっているからです。正直、テレビは何カ月もつけていない。ユーチューブを見ながらいろんなことを考えています。私はテレビを通して何を見ていたのか。動画に取って代わられるなら、そこには共通して描かれているものがあるはずで、それはいったい何なのか」 「小説は100枚以上書かないと本にならない。100枚、200枚を書くというだけで、ふるいが存在していると思います。映像では、数分でスターになり得る。100万回再生される映像がすばらしいとも限らないし、観客の少ない映画がすばらしくないわけでもない。映像はより境目があいまいだと思い、作品の題材に選びました。さらにあいまいなのは音楽だと思う。でもその境目って何?自分はどっち側だと思っているの?と疑問がふくらんでゆきます」 ――朝井さんの小説ではツイッターなどのSNS、今作ではユーチューブが登場します。 「新しいアイテムを積極的に小説に採り入れているというより、昔から人間が抱いてきた問いを、今のアイテムや、今の言葉で書き直しているという感覚があります」 朝井リョウさん=2019年3月8日、東京都中央区、横関一浩撮影 主要人物、私でも… ――これまでの作品ではたびたび登場人物を精神的に追い込むような表現がありました。2013年に直木賞を受けた『何者』の主人公も、新刊『死にがいを求めて生きているの』の主要人物も、プライドを作者にへし折られています。 「それはその主要人物が私でもあるからですね。だから、物語の最後では彼らを抱きしめつつ、もろとも爆死するような感覚です」 「今作は、尚吾と紘の2人に少しずつ自分がグラデーションのように入っていますが、精神的には私は尚吾に近いです。紘を書いているときが楽しく、尚吾には苦しい未来しか今は見えない。小説の中で痛い目を見る人物が自分に一番近い。なぜかそうなるし、そのときに筆が走る。おなかを壊しながら書いていることもあります。執筆しているときには『楽しい』と『苦しい』の両方があって、『楽しい』が51対49でぎりぎり勝つから書き続けているのでしょう」 ――「スター」というタイトルはどうしてつけたのですか。 「スポーツのように誰が見ても“1位があの人だ”とわかるもの以外で、国民的スターが存在しない感覚があるからです。有名人でも、ある世代にとってはスターでも、別の世代は知らないという人が多いですよね。失われつつある言葉、もしくは意味が変わりつつある言葉だと思います。同時に、誰でもスターになれるというのもどうなのかな、とも思っています」 ――構想の段階で、映画監督らに話を聞いたそうですね。 「プロットを書く中で、現役で作品を発表し続けている何人かの映画監督に会いました。話を聞いた映画監督からは『答えのない問いだから、もっと早めに相談してくれていれば、そのテーマはやめろと言えたのに』と言われましたが……」 「考えれば考えるほどわからない。でも、原点に返れば、私は小説を通して正しいことを書きたいわけではないのです。『今度こういうテーマで書きたいんだけど、答えのない問いの周りをぐるぐるするだけになっちゃうかもしれない』と話した友人からは、『99人はそれが間違いだと思ってもいいから、今の自分としてはこう思うという手ざわりを書いてほしい』と言われました。確かにそうだなと思いました。この一行を書くために、このテーマを選んだんだ、という実感ある一行に出あえればいいなと思います」 ◇ 「スター」は週1回、原則金曜日に朝日新聞デジタルで配信します。1話から最新話まで読むことができます。 |
朝井リョウが問う価値と質「肩書が急に直木賞作家に…」
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