過激派組織「イスラム国」(IS)が29日、「死亡説」も出ていた最高指導者のアブバクル・バグダディ容疑者だとする動画を約5年ぶりに公開した。4月21日にスリランカで起きた連続爆破テロ事件を「イスラム教徒を興奮させた」と称賛。シリアで最終拠点が制圧されたことへの報復だと主張し、健在ぶりを誇示した。「戦闘」継続を呼びかけており、生存が本当ならば支持者らを勢いづかせる可能性がある。
「決して降伏したわけでない。同胞の犠牲を忘れず、報復をする」
バグダディ容疑者とされる男はあぐらをかき、側近とみられる3人にゆっくりと間を置きながら、説教をするように訴えた。白髪交じりの長いひげをたくわえ、頭には黒い布。黒い服にベージュのベストを着て、そばには銃が置かれている。5年前の動画より太ったように見える。信憑(しんぴょう)性について、AFP通信は過激派研究機関や専門家が、男はバグダディ容疑者だと分析していると伝えた。
動画は約18分で、撮影日時や場所は不明。男は米欧側を「十字軍」と表現。「イスラムと十字軍との戦いは長い」とし、「神は我々にジハード(聖戦)を求めたのであって、勝利を求めたわけではない」と述べ、戦い続ける意義を強調した。
シリアで最後の拠点が今年3月に制圧されたことについて、「十字軍のイスラムの国に対する野蛮さと残忍性が明らかになった」と主張した。さらに、4月にアルジェリアやスーダンで起こった政変にも触れ、「暴君に対する唯一の道はジハードだ」と行動を求めた。一方、スリランカの事件に言及する際には画面が切り替わり、犯行グループがISに忠誠を示す動画などが映し出された。音声も若干異なり、この部分だけ撮影後に付け足された可能性もある。
求心力を高める狙いか
最盛期にシリアとイラクの国土の3分の1を支配したISだが、米国主導の有志連合による空爆などで勢力は急激に減退。2017年12月にはイラクがISとの戦闘終結を宣言、今年3月には米国のトランプ大統領が「勝利宣言」をし、「領土」の支配は終わった。
だが、ISに参加した7千人以上の外国人が母国に戻ったとされ、武器や爆発物の扱いを覚えた戦闘員による大規模なテロの懸念がある。さらに、過激思想は世界中に広がる。スリランカの事件の実行犯はISに忠誠を誓っていた。また、ISの関与は不明だが、4月28日にも西アフリカ・ブルキナファソで、キリスト教会が襲われ6人が死亡した。
バグダディ容疑者は2014年7月にISが最重要拠点としたイラク北部モスルのモスク(イスラム礼拝所)で説教をした動画が公開されて以降、その姿が確認されることはなかった。17年6月にロシア国防省が空爆で殺害した可能性を発表し、これまで死亡説はたびたび流れていた。一方、シリアとイラクの国境地帯に潜んでいるとの情報もあり、昨年8月には「聖戦」を呼びかける録音音声が公開された。米国は同容疑者に2500万ドル(約28億円)の懸賞金をかけている。ISには世界を揺るがした大規模テロの後にバグダディ容疑者の存在を誇示して、各地の戦闘員や共鳴する組織への求心力を再び高める狙いがあるとみられる。(ドーハ=高野裕介)
■「容疑者本人だ…