四国や九州からも生徒が集まってくる将棋教室が、兵庫県加古川市にある。指導するのはプロ棋士の井上慶太九段(55)。過去に3人のプロをはじめ、棋士を目指す奨励会員約30人を育てた。
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棋士めざす天才少年たちの素顔
加古川市は10年前から「棋士のまち」を名乗る。市内在住・出身のプロが5人おり、筆頭が井上九段だ。隣の姫路市に住む小学5年の炭崎(すみさき)俊毅(としき)さん(11)も、3年前から教室に通う。4月、かつて羽生(はぶ)善治九段も制した小学生名人戦(日本将棋連盟主催)で優勝。教室にはその新聞記事が張り出された。
保育園で友達が遊んでいるのをまねて、6歳で将棋を始めた。父の宣幸(のぶゆき)さん(47)が買い与えた入門書を次々に読みふけり、腕を上げた。姫路市内の小学生大会で準優勝したころ、周囲から「強なったら加古川や」と言われるようになった。教室を見学し、小学2年の秋、毎週末の加古川通いが始まった。
兵庫県芦屋市出身の井上九段は1992年、結婚を機に加古川市に移り住んだ。市内のアマチュアの男性が開く教室で指導を手伝うようになり、2006年に頼まれて運営を引き継いだ。2年前、市がJR加古川駅前に開設した将棋プラザに場所を移し、いまは約60人の子どもが通う。勝って級を上げた子は、大人の部で腕を磨く。
通い始めたころの炭崎さんは、負けて悔しくて、教室の隅で泣いた。井上九段は「ああいう子やないと強くなれへんよ」と見守った。普段は幼い笑顔で冗談ばかり言うが、対局中はうって変わって、大人びたふてぶてしさがにじむ。「勉強と両立させてプロをめざす」と週4日、塾や英会話にも通う。
憧れの棋士はずっと井上九段だ。プロになっても、地域で将棋を広める姿を尊敬してきた。8歳から炭崎さんを見続けてきた井上九段は「勝負度胸がある一方、人懐っこくて、先輩にかわいがられる。教室出身の棋士たちとよう似た雰囲気です」と見込む。
取材の終わり、炭崎さんは「僕の記事より、教室の宣伝してください。その方がずっと大事」と笑った。棋士のまちに育まれ、この夏初めて、奨励会の入会試験に挑む。(玉置太郎)