プロ棋士をめざす少女がいる。師匠は父。同じ夢を見る妹と切磋琢磨(せっさたくま)する。
棋士めざす天才少年たちの素顔
大阪市淀川区の中学2年、久保翔子さん(13)は、将棋の駒の動かし方を覚えたばかりの4歳のとき、初めて対局した父に手加減なしで負かされた。
父は関西を代表するプロ棋士の久保利明九段(43)。翔子さんは号泣し、ぱったり将棋をやめてしまった。
転機は急にやってきた。3年前の春。妹の諒子(りょうこ)さん(8)が将棋を始めると、翔子さんにも火がつき、「私もやりたい」と母みのりさん(52)にせがんだ。通い始めた将棋スクールで年下の子らと肩を並べ、力をつけた。小学校の卒業式では壇上で「5年生で始めた将棋が好き。将来は将棋の仕事に就きたい」と決意表明し、利明さんを驚かせた。
「妹は楽しく将棋を指せる相手」と照れくさそうに話すが、ともにプロをめざす妹の存在が刺激になる。平日は学校から帰ると2人で対局し、土日は一緒に電車を乗り継いで、関西将棋会館の道場へ通う。対局の合間には、緊張から解き放たれたように諒子さんとじゃれあい、帰り道では「あの時こう指せば?」と対局を振り返る。
翔子さんは今年3月、アマチュア有段者の男女が競い合う「研修会」に入会した。月2回開かれる例会で所定の成績をおさめると、女性限定のプロ「女流棋士」への道が開ける。翔子さんの例会での勝率は約5割。簡単には勝たせてもらえない厳しい世界だ。
「やるからにはトップをめざしてほしい」と願う父が一番の師匠だ。プロの対局の一場面を父がスマートフォンで示し、「どう指す?」と問いかけると、翔子さんは「6五歩かなあ」「4八銀の方が良い気がする」と悩む。利明さんは「詰将棋をしない人は強くなれない」と口酸っぱく言い続ける。「やらずに将来後悔してほしくない」との親心からだ。
翔子さんの得意な戦法は父と同じ「振り飛車」。相手の攻めを受け切り、一気に反撃して勝つのがスタイルだ。「攻めるときは攻めて、受けるときは受ける。お父さんみたいに指せるようになりたい」。大きな父の背中を追いかける。(坂東慎一郎)