八村塁のドラフト1巡目指名で注目度が上がったNBA(米プロバスケットボール協会)。NBAを目指して米国留学に旅立つホープがいる。富永啓生(けいせい)、18歳。ゴールリングを遠くから面白いように射抜く丸刈りのシューターだ。渡米を控え、心を弾ませている。
留学先が決まったのは6月。高校卒業後、自宅のある名古屋市内で週2回の英会話レッスンと自主練習を続けて待っていた。「ホッとした。不安より楽しみの方が大きい」。直後の同月21日(日本時間)にドラフト会議があり、「見ていました。(八村の指名が)あんなに上位なんてすごい。びっくりした」。自分もいつか、と自然に心が躍った。
規格外の3Pシューター
入学するテキサス州のレンジャー・カレッジは、2年制の短大の大会で昨季全米2位。「強いのと、元ケンタッキー大のコーチがヘッドコーチをされているので」。ケンタッキー大は大勢のNBA選手が輩出している。八村が所属したゴンザガ大のようなNCAA(全米大学体育協会)1部の大学に編入し、NBAへ、と青写真を描く。
「規格外」のシュート力で脚光を浴びたのが、3位となった2018年末のウインターカップ(全国高校選手権)だ。185センチ、72キロのスモールフォワードは、利き手の左から3ポイントシュートを打ちまくる。3ポイントラインの近くから、なんて関係ない。隙あらばリングから距離があっても躊躇(ちゅうちょ)なく。ハーフライン付近からでも入ってしまう。機を見てゴール下にもドリブルで攻め込み、6試合で239点(1試合平均39・8点)の大会得点王。シュートでどよめかせ、ガッツポーズなどあふれる感情。スター性を印象づけた。
父の啓之さんは元日本代表。三菱電機(現Bリーグ名古屋D)で活躍した2メートル超のセンターで、母のひとみさんも三菱電機の元選手だった。バスケットは「生まれた時からボールがあった感じ」だ。愛知・岩成台中3年で全国3位になったが「目立つ選手じゃなかった」。当時は身長170センチ。チームの雰囲気にひかれて入学した桜丘高(愛知県豊橋市)で身長とシュート力が伸びた。
NBAのスターも太鼓判
高2の2017年11月、初招集された16歳以下(U16)日本代表強化合宿で、ロイブル・ヘッドコーチが「ダイヤモンドを発見した」と富永に興奮したという。昨夏のU18アジア選手権で全体5位の1試合平均19・3得点(7試合)。観戦していた米国の大学コーチからの評価の声が伝わり、「ずっと米国へ行きたいとは思っていたけど、U18(アジア選手権)の後、行ける、となった」。
SNSで、NBAグリズリーズの渡辺雄太や、高校で米国留学したBリーグ千葉の富樫勇樹から、「最初は言葉の壁とかあると思うけど、行った方が技術も磨けるし、成長できる、とアドバイスしてもらえた」のも心強かった。
高校で長所をフルに伸ばしてもらったが、「もっとフィジカル(体力)をつけないと。シュートを打つまでの過程、もらい方とか大事と思う。あとは言葉も」とまだ伸びしろがある。理想は、NBAで昨季までの5シーズンで3度優勝したウォリアーズのステフィン・カリー。6月、来日したカリーとイベントで一緒になる機会があった。「シュートがうまいんだから、どんどん狙っていけと。留学のことを伝えたら、いいことだって。挑戦して、壁にぶち当たるかもしれないけど、それを乗り越えたら、強くなれると、言ってもらえた」。米国へ行っても丸刈りを続けるつもりだ。(松本行弘)